マンションを売却するにあたって、多くの人が考えるのが「大規模修繕の前に、売った方がいいかどうか」ということ。大規模修繕といえば、最初に行われるのが築12~15年頃。マンションを売却しやすいのも築15年以内なので、この時期までに売却をと考えるのは、ごく自然な流れといえます。
しかし、マンションに住む人の中には、「せっかく新築マンションを購入したのだから、築20年・30年とマンションライフを謳歌してから売却したい」という人もいるでしょう。そこで、マンションを大規模な補修・修繕前に本当に売却した方がいいのか、それ以降に延ばすとどんな不都合が考えられるのかについて、お話ししたいと思います。
マンション売却のきっかけ?マンションの大規模修繕とはいったい何?
マンション全体で行う計画的な修繕工事のこと
第1回目の大規模修繕は、築12~15年頃。
マンションは年月が経つにつれて外壁の塗装や屋根の防水など、さまざまな箇所が劣化し始め、補修・修繕しなければならなくなります。これは一軒家でも同じですが、一軒家の場合は個人の判断で補修・修繕できるので、「そろそろ外壁を塗装し直さなくちゃ」と思えば、いつでも気軽に業者に頼むことができます。
ところがマンションの場合は、そうはいきません。住民同士で結成されている管理組合で話し合い、補修・修繕期間をいつにするのか、いくらかかるのか、そのお金をどうやって調達するのかを決めなければなりません。こうして計画的に行われるのが、マンションの大規模修繕です。
大規模な補修・修繕の時期は、マンションの劣化の度合いや構造・管理状態などによっても違いますが、初回が築12~15年頃。その後は10~15年ほどの周期で行われるのが一般的です(資金不足のマンションの場合は、この限りではありません)。
3~4回にわたって行われる大規模修繕
大規模修繕工事は、一般的に下記のようなタイミングで行われます。補修・修繕のタイミングは3回で終わりではなく、4回目を実施するマンションもありますが、いっそのこと建て替えるかどうかの微妙なタイミングでもあります。
<大規模修繕工事が行われる時期>
- 1回目(築12~15年頃):外壁工事や防水工事など、建物外部の補修・修繕が中心
- 2回目(築24~30年頃):給排水や電気設備の交換、エレベーター設備の交換など、建物内部の補修・修繕や共有部分の設備改修が中心
- 3回目(築36~45年頃):玄関ドアの改修や各住戸のサッシ交換・共有施設の大規模リフォームなど、それまで行っていなかった部分の補修・修繕や設備改修が中心
こうした大規模修繕を計画的に行うためには、管理組合が「長期修繕計画」を立てることになります。大規模修繕の課題は住民の間で揉めるケースも多く、大規模修繕委員会を立ち上げてから詳細がまとまるまでには、数年かかることもあります。そうやって喧々諤々の話し合いが終わった後、ようやく大規模修繕が実行されます。
事業主や施工会社の保証期間は、概ね新築から10年間
マンションの新築当初は、事業主や施工会社が何か不具合があれば補修・修繕してくれますが、その保証が切れるのが概ね築10年です。この時期を過ぎるとマンションの事業主や施工会社の対応はガラリと変わり、ひび割れや漏水などがあっても「10年の保証期間を満了しています」ということになり、無償で補修・修繕してはもらえなくなります。
さて、それからはマンション内の管理組合が主体となって、すべての補修・修繕を行わなければなりません。準備のいい管理組合は、新築当初からしっかりと今後の補修・修繕方針を話し合っている場合もあります。しかし多くの管理組合は、新築当初は快適な生活を満喫している住民が大半のため、大規模修繕の話まではなかなか進まないのが現実です。
大規模修繕が決まるまでには、山あり谷あり
どこを修繕するか、資金をどうするかの話し合いが大変
どんなにのんびりしたマンションの管理組合でも、嫌でもその現実に突き当たるのが、築10年のタイミングです。管理会社から防水と塗装の修繕時期の到来に関する調査報告書が届き、「これは大変だ」ということになるわけです。問題がなければ国土交通省が推奨する築12年頃に大規模修繕となりますが、実際には築15年を過ぎて補修・修繕が行われる場合も少なくありません。
その理由は、補修・修繕する箇所の問題と、費用の問題です。たとえば最上階の住民が「屋根が雨漏りする」と言ってきた場合は、そのための調査が必要となり、今回の修繕に加えるべきかの話し合いも必要となります。
最初は少額を見積もっていた大規模改修の費用が、思った以上にかかることがわかると、それをどうするかという問題も深刻です。住民からはさまざまな意見が出て、収拾がつかなくなる場合もあるでしょう。
築10年を過ぎると、マンションライフの大変さを思い知らされる
マンションによっては、こうした補修・修繕に関する一連の取りまとめを、大規模修繕の監理を行うコンサルティング会社に委託するケースもあります。しかしそれにも多額の経費がかかるため、資金不足のマンションは、自分たちですべて行わなくてはなりません。
いずれにしても、大規模修繕はマンションの資産価値を末永く持続するための、非常に重要な作業です。新築マンションに入って新生活を謳歌していた人も、築10年を過ぎるとこうした壁にぶち当たり、現実の大変さを思い知らされることになるのです。
大規模修繕を目前にしたマンション売却は様々な意味で大変!
大規模修繕を目前としたマンションは、先に挙げたことだけでなく、さまざまな点で大変な要素が増えてきます。
人間が中年になると病気や失職などさまざまな問題が起きてくるように、マンションも若いはつらつとした時期を過ぎると、不安なことが忍び寄ってくるもの。しかし渦中にいる住民としては、何とか解決しなければならず、かなりしんどいものがあります。
1回目の大規模修繕で、すでに資金不足のマンションもある
1回目の大規模修繕に必要な費用は、1世帯につきおよそ100万円
「マンションは一戸建てのように、屋根の補修などのメンテナンスに多額のお金がかからないから楽」と思っている人もいますが、それは大きな勘違いです。
マンションの大規模修繕を行う際は、外壁の補修をはじめ、さまざまな箇所の補修・修繕が必要です。1回目の大規模修繕に必要な費用は、1世帯につきおよそ100万円(マンションによって異なる)と言われています。
修繕積立金が足りずに、各家庭から不足額を徴収するケースもある
100万円といえば、一戸建てのメンテナンス費用と変わらない金額です。つまり、一戸建ての補修・修繕は自分の所持金から払い、マンションの場合は修繕積立金から払うだけのことで、マンションにもそれなりに多額の補修・修繕費用がのしかかっているのです。
ところが、先にもお話ししたように、デベロッパーは少しでも売りやすくするために、新築を販売する段階で修繕積立金を安く設定しているケースが少なくありません。住民は購入当初「毎月のコストが安くて良かった」と思うのですが、10年後にフタを開けてビックリ!大規模修繕の総額に修繕積立金が満たずに、各家庭から数十万単位の費用を徴収するマンションも、少なくありません。
不足金額を住民から徴収しない場合は、管理組合が金融機関から借り入れることになりますが、その金額を今後の修繕積立額で賄わなければならないことに変わりはありません。
大規模修繕の後に、管理費・修繕積立金が大幅にアップ!
毎月のランニングコストの増加は、家計に大きな影響を与える
1回目の大規模修繕で資金不足に気付いた管理組合は、大規模修繕が終わった時点で、管理費や修繕積立金の大幅アップを行います。この増額は半端ではなく、段階的に引き上げられる場合もあれば、新築時に2万円ほどだった管理費・修繕積立金の総額が一気に4万円近くに跳ね上がるケースもあります。
毎月のランニングコストの増加は、家計に大きな影響を与えます。ただでさえ住宅ローンで数万円、駐車場代などで数千円から数万円を払っているのに、管理費や修繕積立金まで上がってしまうと、住民としてはたまったものではありません。
中には「そんなお金は払えない」と抵抗する人もいて、長期修繕計画が暗礁に乗り上げてしまうケースもあります。
管理費・修繕積立金の増額は、マンションの売りにくさにつながる
この時期は、ちょうどマンションの売り時のギリギリといえる築15年頃にあたるため、マンションの住民としては「やっぱり大規模修繕前に売却した方がよいのでは?」と悩み始めるのです。管理費や修繕積立金の金額がアップすることは、住民にとって辛いだけでなく、マンションの売りにくさや売却価格の低下にもつながってくることを認識しておきましょう。
そして結論!やはり大規模修繕前にマンションを売却するのは、賢い選択
管理費・修繕積立金が増額されることで、大幅な値引き交渉の可能性もある
こうしたもろもろのことを考えると、やはり大規模修繕が行われる前にマンションを売却するのは、賢い選択ということができます。正確にいうと、大規模修繕の具体的な計画が始まる前に動くのが、一番賢い方法です。
なぜなら、具体的な大規模修繕計画が始まってしまうと、当然ながら購入希望者もそれを計算に入れて検討をします。そうなれば大幅な値引き交渉も考えられますし、長期修繕計画が難航していれば、二の足を踏まれる場合もあります。
逆に長期修繕計画が決まった時点で円滑に運営されていれば、安心材料となる可能性もありますが、そうしたマンションはけっして多くはありません。こうした要素を総合的に考えると、大規模な補修・修繕前にマンションを売却した方が、さまざまな意味で安心と思って間違いはないでしょう。
大規模修繕前のマンション売却に関するまとめ
長期修繕計画を完璧に行うには40年の計画期間が必要ですが、日本国内で25年以上の計画期間を設けているマンションは、実はまだ半数に満たないそうです。これは日本のマンション全体にとって大きな問題であり、マンションの所有者も深刻に受け止める必要があります。
さらに最近は、タワーマンションの大規模修繕を行う際に足場を組めないなど、これまでにない補修・修繕の問題も持ち上がってきています。大規模修繕計画後もマンションを売却せずに住み続ける人は、自分が管理組合の役員になるぐらいの心構えを持ち、今後の修繕計画を真剣に考える必要があるでしょう。