不動産投資と言えば一昔前は投資を生業とする投資家の独壇場でしたが、今は低金利でフルローンが可能になったことでサラリーマン投資家も数多く登場しています。
しかし、手が出しやすくなったからといっても、高額となる不動産投資へ安易に手を出すのはおすすめできません。
ちゃんと収益が見込める物件でなければ収益が出ず、ローン支払も頓挫してしまうからです。
「利回りが何%あれば、収益性が高く、満足いく収益を上げることができるのか」、アパート経営を目指している人にとって、この利回りが一番の関心事ではないでしょうか。
ですがこの利回りは正確な計算をしなければ意味がありませんし、利回りが高いからといって収益性が高い物件であるとは限りません。
そこで今回はアパート経営に必要な利回りの目安はいくらなのか正しい計算方法を解説し、この利回りの注意点を失敗事例を挙げながら紹介していきます。
アパート経営を検討している人はぜひ最後まで目を通して参考にしてください。
アパート経営に求められる利回りの目安は?
利回りは下記計算式で求められます。
年間収入÷購入価格×100
年間収入が購入価格の何パーセントに当たるのかを数値化したものが利回りです。
そのため利回りが分かれば、投資による年間利益と、投資金額の償却年数を推測できます。
3,000万円のアパートを購入したとしましょう。年間賃貸収入が120万円であれば、そのアパートの利回りは下記の通りです。
120万円÷3,000万円×100=4.0%
この購入価格と利回りが分かっていれば、投資資金を回収できる期間を計算することができるのです。
- 年間収入:3,000万円×4.0%=120万円
- 回収期間:3,000万円÷120万円=25年
このように利回りが把握できれば、投資資金の回収シミュレーションができ、収益性のあるアパートを購入するための指標にもなります。
アパート経営を検討する際には、重要な指標とされているのはこういった理由からです。
投資物件には利回りが計算されて記載されており、アパート経営を検討している人は、この利回りを参考にして投資物件を物色しています。
しかし、この方法は正しいのでしょうか?ここで問題となってくるのは、記載されている利回りが正確なものであるかという点です。
この利回りが正確なものでなければ、何の参考にもなりません。その判断材料としてもらいたいのが、アパートの平均利回りです。
そこでまずはアパートの全国平均利回りが、どうなっているのかを見ていくことにしましょう。
2019年アパートの全国平均利回り
投資物件は大きく分けると下記の3つです。
- 一棟マンション
- 区画マンション
- 一棟アパート
- 戸建
利回りは購入物件の種類によって異なります。
下記は「不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)」が「収益物件市場動向マンスリーレポート(2019年12月期)」として発表した、一棟アパートの全国平均利回りデータです。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 |
8.78 | 8.70 | 8.79 | 8.89 | 8.81 | 8.98 |
7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
9.02 | 8.88 | 8.78 | 8.95 | 8.86 | 8.76 |
*2018年12月から2019年11月までの調査結果
8.0%台後半がアパートの平均利回りであることが見て取れます。
しかし、これはあくまで全国平均です。
投資用不動産の利回りは物件種類だけでなく、地域でも差があるため、正確な利回りを知るためには、住んでいる地域の利回りを知る必要があります。
利回りには地域差がある
首都圏の利回りは全国平均と同様に、8.0%台で推移していますが、全国各地には10.0%台のところが数多く見られます。
10.0%台の利回りを記録しているのは、下記地域です。
- 北海道
- 東北
- 信州・北陸
- 関西
- 中国・四国
首都圏と東海、九州・沖縄の地域以外は、すべてが10.0%台が平均利回りとなっているのです。
その中でも特に高い利回りを記録しているのが、北海道と東北で12.0%台の利回りが平均利回りになっています。
実際に東北の平均利回りを見てみましょう。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 |
11.75 | 10.09 | 11.61 | 12.09 | 11.14 | 12.44 |
7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
10.87 | 10.73 | 11.38 | 11.72 | 12.01 | 10.74 |
*2018年12月から2019年11月までの調査結果
このように首都圏よりも地方の方が利回りが高いのは、アパートの購入価格に違いがあるからです。
特に首都圏と地方とでは大きな地域差が見られる、土地価格が影響していると考えられるでしょう。
また利回りは都道府県だけでなく、都道府県内でも違いが見られます。市街地か市街地でないかによって、利回りは違ってくるのです。
アパート購入時には正確な利回りを知ることが必要になります。そのためにも、できるだけ正確な利回りを確認することを心がけてください。
アパート経営の利回りの計算方法は2つ!
利回りには地域差があることを理解してもらったところで、次は利回りの計算方法について解説していくことにしましょう。
利回りの計算方法は2つあり、どちらの計算方法を用いて算出したかによって、数値が持つ信ぴょう性がまったく違ってきます。
- 表面利回り
- 実質利回り
不動産会社の広告には表面利回りが用いられていますが、表面利回りがどのように算出されているかを知ったら、おそらく多くの人が驚くことになるでしょう。
それではこの2つの計算方法には、どのような違いがあるのかを見ていくことにします。
表面利回りとは?
表面利回りはグロス利回りとも呼ばれ、土地購入価格と建物購入価格の合計値を、購入価格として算出された利回りです。
しかし、実際のアパート購入価格にはこの2つ以外にも、下記のように様々な諸費用が発生します。
- 手数料
- 各種保険料
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 消費税
表面利回りには、これら諸費用がアパート購入価格に加算されていないため、正確性を伴う計算方法とは言えないのです。
しかも、年間収入にはアパート全室が満室状態の数値が用いられているため、さらに正確性を欠く数値になっています。
表面利回りの計算方法は下記の通りです。
年間収入(年間満室想定賃料)÷物件購入価格×100
よって、この利回りを当てにして購入すると、実際の入居率が低く、数値通りの利回りには、ほど遠かったという可能性も懸念されます。
表面利回りの計算方法
それでは実際に下記条件で利回りを計算してみることにしましょう。
- 物件購入価格:3,000万円
- 家賃:5万円
- 室数:10室
この場合の表面利回りは下記の通りです。
(5万円×10室×12ヵ月)÷3,000万円×100=20.0%
収益力を大まかにとらえた想定年間収入と、物件購入価格の2つで算出された数値のため、正確な収益シミュレーションをする場合には、この利回りを用いても仕方ありません。
再三となりますが、不動産会社がアパート売出時の広告記載で用いるのは、この表面利回りです。
そのため「利回りが高い=収益性が高い物件」ということにはなりません。
広告記載の数値は鵜呑みにせず、あくまで参考値としてとらえるようにしてください。
実質利回りとは?
実質利回りはネット利回りとも呼ばれ、その呼び名の通り、先ほどの表面利回りよりも実質値に近い利回りです。
まずアパート購入価格には、表面利回りでは省かれていた、諸費用が加算された価格が用いられます。
そして年間収入には、アパート経営を継続していく上で発生する、下記の年間諸経費を差し引いた額が用いられます。
- 固定資産税等の各種税金
- 火災保険料
- 地震保険料
- 賃貸管理費
- アパート管理費
- 税理士費用
- 交通費
- 通信費
- 光熱費
よって、実質利回りの計算方法は、表面利回りとは打って変わり、下記のようになります。
年間収入(年間満室想定賃料-年間諸経費)÷(アパート購入価格+諸費用)×100
この実質利回りの計算方法ならば、表面利回りよりも、実際の利回りに近い数値が算出できます。購入時の参考にするのであれば、表面利回りではなく、この実質利回りを用いるべきでしょう。
ですがアパート購入前の計算となるため、アパート購入時に発生する諸経費や、購入後に発生する年間諸費用の額が明確でないため、想定価格を用いなければなりません。
明確な利回りを算出できる計算方法ではありますが、用いる数値が想定価格のため、計算しづらいという問題点があることは覚えておきましょう。
実質利回りの計算方法
それでは実際に実質利回りを、先ほどと同じ物件で計算してみることにしましょう。
購入時諸費用と年間諸費用を加えた条件は下記の通りです。
- 物件購入価格:3,000万円
- 購入時諸費用:300万円
- 家賃:5万円
- 室数:10室
- 年間諸費用:180万円
不動産購入時に掛かる諸費用は、物件購入価格の7%から10%、賃貸物件の運営に掛かる年間諸費用は20%から30%が相場です。
そこで今回この2つは最高値の10%と30%で算出した、想定価格を用いて計算することにします。
その場合の利回りは下記の通りです。
(年間満室想定賃料600万円-年間諸費用180万円)÷(購入価格3,000万円-購入時諸費用300万円)×100=15.55%
表面利回りで算出した数値が20.0%ですから、シビアな数値が算出されていますよね。
アパート経営に備えた収益シミュレーションを行う場合は、この実質利回りを用いた方が、より精度の高いシミュレーション結果を出すことができます。
表面利回りはあくまで参考値として、購入物件の比較に用いるにとどめ、その後、候補先を絞った後は、この実質利回りを用いた比較をおすすめします。
アパート経営に必須!正確な利回りを導くための計算方法
ここまで利回りの計算方法について解説してきましたが、表面利回りよりも、実質利回りの方が、実際に得られる年間収益に近い数値を導き出せることは理解してもらえたことでしょう。
それならば実質利回りを用いて、収益シミュレーションをすれば正しいシミュレーションができそうですが、話はそれほど単純ではありません。
確かに実質利回りを用いて計算すれば、表面利回りを用いるよりも、実際の利益に近い数値を算出できます。
ですが、さらに実際の利益に近い数値を算出できる、利回りを導き出す計算方法があるのです。
ここではその利回り計算するために必要なポイントについて解説していきます。
売出別件の利回りは想定利回りで計算されている
アパート売出時の利回りが表面利回りであれば、必要条件を加えて実質利回りを出せば、実際の収益に近い数値を求められる利回りを算出することができます。
しかし、表面利回りにしても実質利回りにしても、注意しなければならないのは共に想定利回りだという点です。
実質利回りの方が表面利回りよりも精度の高い収益額を算出できますが、それでも想定利回りのため、実際の収益額とは程遠い数値となるケースが出てきます。
想定利回りとは?
想定利回りとはアパートの入居率が100%であることを前提として、算出された利回りを指します。
表面利回りにしても、実質利回りにしても、年間収入は年間満室想定賃料を用いて計算されるため、購入後の利回りは、実際の空室率とのギャップが影響して低くなる可能性が出てくるのです。
先ほど下記条件で算出した実質利回りは15.55%でした。
- 物件購入価格:3,000万円
- 購入時諸費用:300万円
- 家賃:5万円
- 室数:10室
- 年間諸費用:70万円
これは年間満室想定賃料で算出したものですが、年間空室率が50%だった場合、その利回りはどうなるでしょう。
その場合の利回りは下記の通りです。
(年間賃料300万円-年間諸費用180万円)÷(購入価格3,000万円-購入時諸費用300万円)×100=4.44%
入居率が変わっても年間諸費用には変わりがないため、利回りはグンと低くなってしまいます。
このように利回りを算出する場合には、実質利回りを用いるだけでなく、空室率を考慮した計算方法が必要なのです。
空室率を考慮した計算が必要!
より正確な利回りを算出するには、入居率を考慮した算出方法を用いる必要があることは理解してもらえたでしょう。
そこでここでは、その計算方法について解説していくことにします。
まずは空室率の計算方法です。空室率は下記の計算式で求められます。
(空室数×平均空室期間)÷(総室数×12ヵ月)×100
一棟10室のアパートがあり、購入後5室の空き室が3か月間埋まらなかったとしましょう。
その場合の空室率は下記の通りです。
(5室×3ヵ月)÷(10室×12か月間)=12.5%
そしてこの空室率を、利回りの計算時に用いてあげるのです。
この空室率を用いた実質利回りは、下記の計算方法で求められます。
年間収入(年間満室想定賃料-年間諸経費)÷(アパート購入価格+諸費用)×(100-空室率)
それでは先ほどの下記条件で、今計算した空室率を用いた実質利回りを計算してみましょう。
- 物件購入価格:3,000万円
- 購入時諸費用:300万円
- 家賃:5万円
- 室数:10室
- 年間諸費用:180万円
この場合の利回りは下記の通りです。
(年間満室想定賃料600万円-年間諸費用180万円)÷(購入価格3,000万円-購入時諸費用300万円)×(100-12.5)=13.61%
先ほど空室率を考慮しなかった時の実質利回りが15.55%だったので、さらにシビアな数値が算出されています。
空室率を出す際は、空室数と平均空室期間の根拠が重要なポイントです。中古アパートであれば、近年のデータを参照することができますが、新築する場合は想定値での計算を余儀なくされる点が問題になってきます。
いかに現実に近い想定値を用いるかが重要なポイントとなってくるでしょう。新築アパートの場合には、先ほどの実質利回りの算出と同様、計算しずらいという問題点があることは覚えておきましょう。
年間諸費用の修繕費には注意しよう!
アパートを維持するために年間諸費用が必要になることは話しましたが、その中でも特に注意してもらいたいのが修繕費です。
アパート経営を継続していくと、大体10年に1度ほどのペースで下記のような修繕が必要になります。
- 屋根材の塗装や葺き替え
- 壁材の塗装や張り替え
毎年必要になる経費でないため見逃しがちではありますが、一度にまとまった支出となるので修繕に備えた対策が必要です。
分譲マンションであれば管理規定で毎月、修繕積立金が居住者から回収されるようになっていますが、賃貸アパートでは居住者ではなく経営者の支出になります。
どのような修繕が発生し、どれくらいの費用が掛かるのかを把握した上で、利回りの計算では積み立て金として年間諸経費に加算することをおすすめします。
そうすればさらに正確な利回りを算出できるでしょう。
修繕費とは?
それではどのような修繕が発生し、どれくらいの費用が掛かるのか、その相場を紹介しておきます。
修繕箇所 | 発生時期 | 相場価格 |
屋根の防水処理 | 10年~15年 | 約30万円/85㎡(スレート材) |
屋根の葺き替え | 20年~30年 | 約80万円/85㎡(スレート材) |
外壁の塗装工事 | 10年~15年 | 150万円~(10室2階建て) |
雨樋の交換や塗装 | 5年~10年 | 5万円~10万円 |
ベランダ雨漏り工事 | 10年~15年 | 3,000円~5,000円/㎡ |
外階段・廊下の補修 | 5年 | 5万円~30万円 |
排水管・排水桝のメンテナンス | 5年 | 5万円~30万円(10室2階建て) |
給配水管の全交換 | 30年 | 300万円以上~ |
外部建具の点検・調整 | 10年 | 15,000円~/箇所 |
外構の補修・修繕 | 20年 | 7,000円~9,000円/㎡ |
室内給湯器の交換 | 10年 | 10万円/室 |
浴室設備の修繕 | 都度対応 | 5万円~10万円/室 |
洗面台の部品交換 | 都度対応 | 5万円~6万円(混合水栓交換時) |
トイレのトラブル | 都度対応 | 3,000円~10,000円 |
キッチンのトラブル | 都度対応 | 20,000円~ |
ガスコンロの交換 | 20年 | 100,000円~ |
エアコンの交換 | 15年 | 100,000円/室 |
10室2階建ての木造アパートなら、30年間で発生する全修繕費は2,000万円くらいが目安です。
特に10年を超えたくらいから修繕が目立つようになり、20年を超えると掛かる費用が高額になってきます。
まずは30年間経営すると前提していくらの修繕費が必要になるかを把握し、それを分割した金額を年間諸経費に加算するようにしてください。
利回りの高い物件が必ずしもアパート経営を成功させるとは限らない!
アパート経営で利回りは、物件購入時の購入条件で必要不可欠な指標の1つになります。
その理由は利回りが高いほど、収益性が高い物件であることを示しているからです。
ここまでに解説した、正しい実質利回りの計算方法を用いれば、実際の収益額にかなり近い数値を算出することができるでしょう。
しかし、その計算方法で求めた利回りであっても、利回りのみに頼った物件購入では、手痛い目に遭ってしまいます。
アパート経営を成功させるためには、利回りはもとより、その他の条件も考慮に入れた、物件選びが必要になってきます。
物件選びを利回りだけに囚われてはいけない理由
利回りが高い物件であれば、高収益が期待できることに違いはありません。
しかしアパート経営に失敗する要因を除外しないことには、利回りが高い物件でもその確率はグンと下がってしまいます。
その要因は下記の4つです。
- 適正な家賃設定
- 入居需要
- 購入後のランニングコスト
- 購入時の入居状況
これらに問題があれば、アパート経営に失敗してしまう可能性は高くなります。
それでは事例を挙げていきながら、これらがアパート経営にどう影響してくるのかを見ていくことにしましょう。
見せかけの想定家賃で利回りが計算されていた
アパート購入時には、複数の不動産会社から物件情報を入手することになります。
そうなれば不動産会社も売買契約を取ろうとおすすめの物件を紹介してくるようになりますが、最初に紹介する話は家賃設定の適正さを確認しなかったため起こった悲惨な話です。
アパート経営のために、収益性の高い物件を探していたAさんは、ある時A不動産の営業に「滅多に出ない高収益物件があります」と話を持ち掛けられました。
確認すると確かに、周辺物件よりも5.0%ほど利回りが高いアパートだったのです。
「非公開物件ですが、他の人にも話をもって行っている。」「もしかしたらその人で契約することになるかも・・・」と契約をせかされたAさんは、悩んだ挙句、購入を決めました。
しかし、購入後は空室が埋まらなかったのです。管理先の不動産会社に相談すると「家賃が高すぎるから」とのことでした。
周辺物件の家賃に合わせた家賃引き下げを余儀なくされたのですが、変更後の家賃で再度利回りを計算してみると、なんと当初の利回りから6.0%も下がってしまったのです。
しかも、その利回りは周辺の物件相場よりも低く、むしろ利回りの悪い物件になっていました。
これは悪質な不動産会社に騙されたケースですが、家賃が相場よりも高く設定されているのを、見逃した経営者のミスでしょう。
せかされず正確な利回りを算出できていれば、このトリックにも気づいたはずです。年間満室想定賃料の計算に用いられる根拠が間違っていれば、利回りは全く異なる数値となってしまいます。
不動産会社の話を鵜呑みにせず、利回りを算出した根拠に間違いがないかの確認は怠らないようにしてください。
入居需要が低く、入居者が集まらなかった
先に話したようにアパートの利回りは、土地が安い地方ほど高くなります。この話はこの利回りの高さに目を付け、まったく地理的理解もない地方の物件を購入して失敗した話です。
地方の高利回り物件を探していた東京在住のBさんは、東北のとある地域に25.0%のアパートを発見し、これはと思い即購入しました。
しかし、購入後いつまでたっても入居者が現れることはなく、家賃を引き下げしても状況が変わることはなかったのです。
購入したアパートに問題があるのではと思い、現地に出向き物件を確認したところ、アパートが立っている周辺には田畑ばかりで、家もまばらという状態でした。
理由は入居需要のないアパートだったのです。その後も状況が改善されることなく、給料を毎月の住宅ローン支払いに充てる期間が続きましたが、とうとう生活に支障をきたし、物件を手放す結果になりました。
高利回りの物件でも入居需要なければ収益が上がることはありません。特に地理感がまったくない、遠方の物件を購入する際には注意が必要です。
購入物件の周辺環境がどうで入居需要が確保できる環境にあるのか、この確認は物件購入前に欠かさないようにしてください。
購入後に高額な修繕費が必要になった
後で詳しく解説しますが、投資物件は築年数が古いほど利回りが高くなります。
これは購入価格が低くなるためなのですが、築年数が古いアパートで忘れてはならないのが修繕費です。
これは先に話したのでご理解いただいているでしょうが、この話はその修繕費の存在を無視した結果、失敗してしまった話です。
Cさんは年収300万円ほどのサラリーマンでしたが、家族がいないことに加えて近年は低金利でフルローンできることもあり、アパート経営の検討をしていました。
しかし、年収によるローンの問題で高額物件の購入が不可能で、なかなか良い物件に巡り合えなかったのです。
そんなある日、築年数は古いものの、購入価格が安い高利回りの物件が見つかり、善は急げと見学もせずに購入を決めました。
ですが管理会社との契約の際、入居者を募るには修繕が必要と言われ、驚いてアパートを見に行ったところ、自分が購入したアパートがボロ物件であることを知らされたのです。
仕方なく管理会社の言うがまま改修修理をしたのですが、思いもよならい出費となり支出後の利回りを再計算してみると、利回りは平凡なものに落ち果ててしまいました。
「これなら高額でも、もっといい物件が購入できたのに・・・」とCさんは激しく後悔したそうです。
中古は新築と比べ、維持するためのタンニングコストが高くなります。中古アパート購入時には、どれくらいのランニングコストが必要になるのかの把握は必須です。
この話はそれがいかに重要かを知らされる話でした。
入居者に反社会的勢力や宗教法人がいた
4つ目の話はアパート経営で失敗しないため、あらゆる状況確認や物件確認をしたのに、失敗してしまったという珍しい話です。
1,000万円を超える高額年収のDさんは、あまった資金を資産運用に回そうとアパート経営に乗り出しました。
正確な実質利回りを計算した上で周辺環境から入居需要も高いことを確認後あるアパートを購入したのですが、購入してから数ヵ月が経っても、入居者がまったく現れません。
理由が分からず、近隣調査をしたところ、どうやらそのアパートには暴力団関係者が出入りしており、宗教関係者までもが入居していた事実を知らされたのです。
今のところ解決策は見えておらず、入居者が入らないため、赤字経営が続いています。
本当に残念なケースではありますが、これは入居状況の確認ができていなかったことが招いた失敗です。
入居需要がある地域でも、他の理由で入居者が現れないことも考えられます。
このような失敗を回避するためにも、中古アパートを購入する際はアパートオーナーから数年の入居状況を確認する必要がありますね。
新築と中古ではどちらがおすすめ?
アパート経営を始める際、予算が十分に取れるのであれば、新築アパートも視野に入ってきます。
しかし、新築と中古では、どちらの方が得なのか迷われる人も多いでしょう。
アパート経営は投資であり、一番に収益性が求められるため、これは気になって当然のことです。
そこで最後に、下記4つにおいてどちらにメリットがあるのかを、比較検討していくことにします。
- 利回り
- 融資条件
- 収支
- 年間ランニングコスト
新築か中古で迷っている人は、しっかりと目を通してもらい、ぜひ判断の参考にしてください。
利回りはどっちに軍配が?
まずは利回りの比較からです。投資するなら高利回りは欠かせない条件になってきます。
となれば新築と中古に利回りの違いがあるかは、物件選択で重要なポイントになってくるでしょう。
利回りは中古の方が高い
下記は「不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)」が調査し「収益物件市場動向マンスリーレポート(2019年12月期)」として発表した中の、「築年別利回りの推移」のアパート表面利回りです。
築年数 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 |
築10年未満 | 7.36 | 7.09 | 6.86 | 6.88 |
築10年以上~ | 9.03 | 8.68 | 8.21 | 8.06 |
築20年以上~ | 10.42 | 10.26 | 10.24 | 10.20 |
これは全国平均の調査結果ですが、この数値を見れば、築年数が古いほど表面利回りが高いのは明白です。
となれば利回りは中古の方がお得という話になってきます。
これはアパートの建物部分の経年劣化が、市場価格の低下に影響しているからです。
土地は経年劣化を伴わないため、市場価格に大きな変化はありませんが、建物部分は経年劣化を伴うため、築年数が古いほど市場価格は下がっていきます。
- 市場価格:新築に近いほど高い
- 利回り:築年数が古いほど高い
市場価格と利回りは、反比例の関係にあると覚えておきましょう。
融資条件はどっちに軍配が?
多くの人がアパート購入の資金源としているのが、銀行等の住宅ローンです。
アパート経営するにしても住宅ローンが利用できないことには、アパートの購入ができない人が大半でしょう。
そしてアパート経営には、この住宅ローンの返済期間が何年になるのかが、重要なポイントになってきます。
毎月の住宅ローン返済にはアパートの賃料が充てられますが、ローン支払い後に資金が残る状態でなければ、アパート経営に成功できないからです。
長期返済であるほど、毎月のローン返済額は少額になります。
となれば、融資期間が何年になるかは、経営者も気になってくるところでしょう。
融資条件は新築が有利
融資期間はどのように決まるのでしょうか。
基本的に投資物件に対する融資期間は、建物の法定耐用年数が関係してきます。
しかも、法定耐用年数はアパートの構造で異なり、下記のように設定年数に違いが見られます。
構造 | 法定耐用年数 |
木造 | 22年 |
鉄骨造:骨格材の厚み3mm以下 | 19年 |
鉄骨造:骨格材の厚み3mm超え~4mm以下 | 27年 |
鉄骨造:骨格材の厚み4mm以上 | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
マイホームで住宅ローンを組む場合は、年齢と銀行の最長融資期間に応じて融資期間が決められますが、投資物件の場合は融通が利きません。
サラリーマン投資家のように、信用性が低い投資家の場合は、逆に融資期間が短縮される可能性すらあるのです。
そして、注意して欲しいのが中古アパートの場合です。中古アパートの場合、上記の法定耐用年数がそのまま融資期間になるわけではありません。
購入するのが築10年の木造中古アパートだったとしましょう。この場合は木造アパートの法定耐用年数22年から、経過分の10年が差し引かれた12年が法定耐用年数になります。
よって、融資期間も自ずと最長12年に短縮されるというわけです。
中古アパートの融資期間の計算方法は、銀行によって異なるため若干の差は出てきますが、概ねこういう考え方になるので、融資条件においては中古よりも新築の方がメリットが高くなってくるのです。
投資物件としての中古アパートは10年以内のものが最も多いと言われていますが、築年数が融資期間に影響を及ぼすことはシッカリと覚えておきましょう。
収支はどっちに軍配が?
一般的にアパートの家賃は新しいものほど高くなり、古いものほど安くなる傾向があります。
これは新しいほどデザインや間取りが最新のトレンドを反映したものになるため、入居率が高いためです。
しかも、築年数が古いほど修繕費をはじめとするランニングコストが必要になるため、収支に関しては新築マンションの方が高くなってきます。
ですがこれはあくまで一般的な話で、空室率が大きく影響してくるので、一概に断定することはできません。
収入が多いのは新築だが・・・
新築は入居率が高いため、中古よりも確実に高い家賃設定ができます。
また新しいことから修繕費もかからないため、初心者の人にとっては収支を気にすることなく経営できるおすすめの投資物件と言えるでしょう。
しかし、入居率が高い新築でも、確実に満室に近い入居率が得られるとは限りません。
入居需要があることが前提になりますし、入居需要がある地域でも、立地条件が影響すれば入居需要がなくなることも考えられます。
このように新築アパートは、購入後の空室率を予測することが困難です。その点、中古アパートは所有オーナーから入居情報を確認すれば、正確な入居状態を知ることができます。
高い入居需要が見込める立地条件の良さを考慮して、土地を購入するつもりで中古アパートを購入し、その後リノベーションや建て替えでアパート経営に成功する人も少なくありません。
一般的には新築に近いほど収支は大きくなってきますが、経営者の手腕が問われるところではあるでしょう。
中古と新築アパートは結局どっちに軍配が?
ここまでの各条件比較の結果は下記の通りです。
- 利回りの良さ:中古アパート
- 融資条件の良さ:新築アパート
- 収支の良さ:新築アパート
しかし、これはあくまで一般論での話です。
この結果だけ見れば新築アパートの方がおすすめのようにも見えますが、経営者手腕で築年数の古いアパートでも成功しているケースは多々あります。
予算が合うのならば、手間やランニングコストのかからない、新築マンションがおすすめですが、最終的には総合的判断が必要になってくるでしょう。
アパート経営の利回りの目安まとめ
今回はアパート経営で欠かせない利回りについて解説しました。
利回りは購入後の経営ビジョンにも大きく関係してくるので、購入検討時にはできるだけ実際の収益に近い数値が求められる、正確な利回りが必要不可欠です。
また、利回りに頼り切ったアパート購入は絶対に止めてください。正確な利回りを算出したとしても、様々な要因が影響して、利回りが下がってしまう可能性があるからです。
利回りはアパート経営をする上で、欠かせない指標であることに違いはありません。
今回の解説内容を参考にし、正しい利回りを想定して、失敗しないアパート経営となるようにしてください。