マイホームの購入が多くの方にとって人生に一度きりの大きなイベントと同じように、住宅ローンを借りることも大きなイベントの一つでしょう。
住宅ローンという商品はテレビや広告などで耳にする機会も多いですから、馴染みがあるような気もしますが、実際初めて住宅ローンを借りる場合は分からないことも多く戸惑った経験のある方も多いでしょう。
住宅ローンを借りる場合、どこの銀行から借りるかを迷う方も多いですが、その際に大きな決め手となる一つが金利です。
住宅ローンを借りる場合、金利が低い方が得になるのは間違いありません。しかし住宅ローンの金利とはいったいどのような仕組みで、どのように決まっているでしょうか。
また、今後の金利はどのように推移していくでしょうか。今回の記事では住宅ローンの金利について、最近の情勢を踏まえながら解説していきます。
住宅ローンの金利とは?
金利とは、お金を借りる側が借りた相手に対して支払う金銭のことを言います。住宅ローンの場合、借入をする金融機関に対して払うことになるお金です。
住宅ローンが借りれなければ何千万円もするマイホームを購入することは出来ない訳ですから、お金を貸してくれた金融機関に対する手数料と考えれば理解しやすいでしょう。
金利は通常〇%というパーセンテージで表示されます。このパーセンテージは借入金額に対する金利の支払いが何パーセントになるかというのを表していますが、年利であることはあまり意識したことがないでしょう。
例えば1,000万円の住宅ローンを金利1%で10年間借入した場合、1,000万円×1%で金利の総額が10万円かというとそうではありません。
住宅ローンは10~30年などの長期間で借入する場合が多く、2年目・3年目と同じようにその時の残高に対して金利が発生しますから、実際の支払い金利はもっと高くなります。
分かりやすいように、1,000万を1%で1年で借りた場合と10年で借りた場合の支払い利息を比較していましょう。
【1年で借りた場合の支払い利息】
総返済額=10,054,248円→支払い利息合計=54,248円 |
【10年間で借りた場合の支払い利息】
総返済額=10,512,480円→支払い利息合計=512,480円 |
このように支払い利息は1年と10年では、当たり前と言えば当たり前ですが約10倍もの差があります。
最近では低金利の恩恵で「0.●%」のような低金利の住宅ローンの広告を見かけることも珍しくありません。このような広告を見るとほとんど金利を払わなくても良いような錯覚に陥ってしまいますが、借入期間が長期にわたる住宅ローンでは、いくら低金利でも支払いが相応にあることを理解しておきましょう。
金利の違いによる返済額はどれくらい?
では実際、金利の違いによってどれくらい返済額に差が出るかを見ていきましょう。
住宅ローンの借入は平均3,000万円程度の場合が多いので、3,000万円を期間35年で借入した場合の差を計算すると下記のようになります。
総返済額 | 支払い利息合計 | |
0.5%の場合 | 32,707,500円 | 2,707,500円 |
1.0%の場合 | 35,567,700円 | 5,567,700円 |
2.0%の場合 | 41,738,760円 | 11,738,760円 |
このように金利が少し違うだけで、総支払額は大きく変わります。0.1%程度の違いであっても支払い利息は50~60万円もの差が出ることになりますから、金利で住宅ローンを比較する場合には少しでも低い金利の銀行を選ぶと良いでしょう。
変動と固定金利の仕組み
一口に金利と言っても、様々なタイプがあります。住宅ローンの金利を分けると大きく2つ、変動金利と固定金利に大別されます。住宅ローンを借りる際には必ず金利タイプを選択する必要があり、変動金利と固定金利で迷う方は多いです。
しかし住宅ローンを借りるタイミングは他にも決めなければならない事も多く、きちんと検討出来ないまま金利タイプを決めてしまって後悔する方も少なくありません。
後悔しないためにも、変動金利と固定金利についてそれぞれの特徴をよく理解しておくことが大切です。それぞれの金利タイプについて見ていきましょう。
変動金利
変動金利とは、名前の通り借入期間中も当初の借入金利が変動するタイプの金利です。変動金利の特徴は常に金利が変動するリスクがある代わりに、固定金利に比べると金利が低いことです。
一般的には、変動金利は金利が下がっている局面では借りている方にとってプラスに働きます。一方で金利上昇局面になると、金利の上昇というマイナスの影響を受けることになります。
住宅ローンの変動金利は、6ヶ月毎に金利が見直しされることが一般的です。また金利が変動した場合でも、毎月の返済額は変わらず利息と元金の内訳が変わり、毎月の返済額は5年毎に見直すタイプが多いです。
また変動金利期間中はいつでも固定金利へと移行できる金融機関が多いのも特徴です。
固定金利
固定金利とは名前の通り金利が固定化されているタイプの住宅ローンで、借入期間中に金利が上昇しても金利の上昇を回避できるメリットがあります。
住宅ローンは借入金額が何千万と大きな金額になるため0.1%金利が違うだけで数十万の影響があることは先ほども説明しました。そのため金利上昇リスクを回避を出来ることは大きなメリットである一方、金利が低下しても借入金利が下がることはありません。
固定金利には借入期間中の全期間にわたって固定のものから、2年~20年の間で期間を定めたタイプのものがあります。
期間を限定した固定金利での借り入れは、固定金利期間が終わったあとは再度固定を設定するか変動金利へと移行するかを選ぶことになります。
また一度固定金利を選択すると、途中で変動金利へと移行することは原則できません。繰り上げ返済や変動に移行する場合、金融機関によっては別途手数料がかかるので注意が必要です。
メリット | デメリット | |
変動金利 | ・金利が下がると支払い利息が減少
・いつでも固定金利へ移行可能 |
・金利が上がると支払い利息が増加 |
固定金利 | ・金利が上がっても支払い利息は固定 | ・金利が下がっても支払い利息は固定
・変動への移行は原則不可 |
元利均等と元金均等の違い
住宅ローンの金利タイプには変動金利と固定金利の他に、もう一つ選ぶべきタイプがあります。それが、元金均等方式と元利均等方式です。
住宅ローンを利用したことのない方はもちろん、住宅ローンを利用している方でも知らない方も少なくないでしょう。しかし、この二つは利息の計算方法が大きく違うため住宅ローンを選ぶ際には理解しておくことが大切です。
元利均等方式
参照:野村不動産アーバンネットより抜粋
元利均等方式とは、毎月の返済額は借入当初から完済まで一定で、利息と元金の内訳が変わっていくタイプの返済方式です。
上記の図のように借入当初は利息負担が大きく、元金の返済スピードは緩やかですが年数が経つにつれて元金への返済割合が高くなります。一般的に住宅ローンでは、こちらの元利均等タイプが主流となっています。
元金均等方式
参照:野村不動産アーバンネットより抜粋
元金均等方式は元金の返済額は常に一定額で、利息の負担が変わっていくタイプの返済方式です。借入当初は残高が多い為利息負担が多いですが、年数の経過と共に利息負担が減っていきます。
それに合わせて毎月の返済額も減少していくのが、元金均等方式の特徴です。一般的に同じ金利で同じ借入金額であれば、元金均等方式の方が支払い利息の総額や安くなります。
試しに1,000万円を金利1%で35年で借りた場合の、支払い利息の違いを見てみましょう。
■元利均等方式の場合
総支払利息=1,855,760円 ■元金均等方式の場合 総支払利息=1,755,233円 |
このように同じ金利であっても、支払い利息に差があります。金融機関によっては元利均等方式しか選べない場合もありますので、注意が必要です。
住宅ローン金利の過去と現在の推移
住宅ローンの金利の仕組みについて理解で出来たら、実際の金利がどのように推移しているかについて見ていきましょう。
参照:一般社団法人住宅金融普及協会から参照
上記の表は民間の金融機関におけるこれまでの変動金利と固定金利の動きを表しています。この表を見るとこれまで住宅ローンの金利が大きく動いてきたことがお分かり頂けるでしょう。
バブル崩壊
過去一番金利が高かった時期は平成初期のバブル経済の時期です。この時期は実際の経済以上に景気が良くなり、株や不動産・金利などが上昇していた頃で、住宅ローン金利は変動金利で8.5%を記録しています。
またこの時期は変動金利よりも固定金利を選ぶ方も多い時期で、上記の表には記載してありませんが、現在の住宅金融支援機構の前身である住宅金融公庫の固定金利は当時で5~6%程度でした。
変動金利よりも固定金利の方が低いという異常な時期ですが、この頃はそれだけ景気が上向いており誰もが今後も景気が良くなり続けると思っていました。
8.5%と言うと今では考えられないぐらい高い金利ですが、3,000万円を35年借りた場合の実際の支払い利息を比べて見ましょう。
総返済額 | 支払い利息合計 | |
金利1%の場合 | 35,567,700円 | 5,567,700円 |
金利8.5%の場合 | 94,104,360円 | 64,104,360円 |
金利8.5%の場合の支払い利息は何と6,400万にもなり、借入金額の倍以上もの利息を払うことになります。いかに当時の金利が高い金利であったかがお分かり頂けるでしょう。
マイナス金利
一方現在は、マイナス金利と言われるように超低金利政策が長らく続いており、住宅ローン金利も下がり続けています。マイナス金利とは2016年から始められた超低金利政策ですが、これにより住宅ローン金利は一段と低下しました。
上記の表は、金融機関の店頭金利を表していますので変動金利などは直近ではずっと変化していないようにも見えますが、実際の金利は下記の表のように下がり続けています。
参照:FPの住宅ローン比較より抜粋
マイナス金利が導入された2016年を境に金利大きく低下したのが分かります。金利タイプによっては、その後上昇をしていますが変動金利はその後も一貫して低下しています。
2020年2月現在、一部のネット銀行では0.4%を切る水準の金利も出てきており更なる金利低下が続いています。
住宅ローン金利はどうやって決まる?
このように金利は時代の情勢によって大きく変化してきました。しかし、これから住宅ローンを借りる予定の方にとって気になるのはこれまでの金利よりも、今後の金利です。
今後の金利を予想するには、住宅ローンの金利がどのように決められるかを知っておく必要があります。
結論から言いますと、住宅ローンの金利は各金融機関が独自に決めています。ですから金利決定までのプロセスは、金融機関によって違います。
しかし、大手銀行を始めとして各金融機関の金利が同じような動きをするのは、金利を決める際の指標が同じだからです。
ではどのような指標を参考にしているでしょうか。それは変動金利と固定金利によって違います。一般的に変動金利は「短期プライムレート」を、固定金利は「長期プライムレート」を参考にしています。
プライムレートという言葉は新聞やニュースでも度々耳にしますから、ご存知の方も多いでしょう。しかしそのプライムレートはどのような金利でどのようにして決まっているかは意外とご存知のない方もいるかと思いますので、ここではプライムレートについて見ていきましょう。
プライムレートとは?
プライムレートとは、銀行が企業に融資をする際の最優遇金利を意味します。銀行の融資金利は融資先の企業の信用によって変わりますから、プライムレートは優良企業向けの優遇金利ということになります。
リーマンショックの際によく耳にした「サブプライムローン」が信用状態が良好ではない方向けの金利の高いローンであったことをイメージすると、より分かりやすいでしょう。
そして融資期間が1年以内の短期のレートを短期プライムレート、1年超の長期のレートを長期プライムレートと言い、各金融機関毎にレートが決められています。
プライムレートも結局は各金融機関が決めているレートですから、住宅ローンの金利は結局何を参考にしているの?と思ってしまいますが、各金融機関がプライムレートを決める際に参照にしている指標があります。
- 短期プライムレートの場合→政策金利
- 長期プライムレートの場合→長期金利
分かりづらいのが、政策金利や長期金利と言ってもいくつか種類があることです。結局住宅ローンの金利は何を見ればいいの?と思ってしまう方も多いのは、この分かりにくさが要因です。政策金利と長期金利について説明していきます。
政策金利とは
政策金利とは、民間の銀行が資金を調達する際の金利を表します。政策金利は、銀行の銀行とも呼ばれる日本銀行が決めています。
日本銀行は国内の景気を適切に調整する役割を担っていますから、日本の景気を見ながら政策金利を決めています。
例えば景気が悪化している局面では政策金利を下げる政策を取ります。政策金利を下げることで、民間金融機関の貸し出し金利も下がります。
銀行の融資金利が下がることでお金を借りる人が増え、世の中へ出回るお金の量を増やして経済活動が活発になることを狙いとしています。一方で景気上昇の局面では政策金利を上げることでお金を借りる人を減らして、世の中のお金の流通を抑制し過度な物価上昇などを抑えます。
このように大切な役割を果たしている政策金利ですが、時代とともに指標が変わっています。元々は公定歩合と言われる日本銀行が民間銀行へ貸出する際の金利を政策金利としていましたが、1999年に銀行の金利が自由化されてからは民間銀行が市場から資金を調達する際の金利である無担保コール翌日物が政策金利として使われるようになりました。
コールとは「買う」を意味する金融用語です。翌日物とは調達期間が1日であることを意味しますから、無担保コール翌日物とは、銀行が市場から1日だけ無担保で資金を調達する際の金利という意味になります。過去の政策金利の推移を見てみましょう。
参照:日本銀行
このように政策金利の推移を見ると、住宅ローンの変動金利と概ね同じ動きをしているのが分かります。現在のマイナス金利とはこの政策金利がマイナスであることを表しています。
長期金利とは
続いて長期プライムレートの指標となっている長期金利を見ていきましょう。長期とは1年を超える期間を表す金融用語です。代表的な長期金利の指標は10年物の国債の金利とされています。
政策金利が現在の景気動向を反映するのに対して、長期金利は将来の景気動向を織り込んだ水準になるのが特徴です。
足元の景気が悪くても将来景気が良くなると予想出来る場合、将来の物価の上昇や流通しているお金を抑制するために金利の上昇が予想されることから長期金利は上昇します。
逆に景気の減速が懸念される場合は、お金の流通量を増やすために金利の低下が予想されるため長期金利は低下します。
住宅ローンの店頭金利を見ると、変動金利が直近では殆ど動きがないのに対して長期金利は頻繁に動きがあります。これは変動金利が政策的に決められているのに対して、長期金利は将来の景気の予測が織り込まれていることが要因の一つです。
住宅ローンの金利は、このように各金融機関が指標を参考にしながら決めています。将来の住宅ローン金利を予想する場合には、指標となる数値をこまめに確認することが重要です。
変動金利→短期プライムレート→政策金利→無担保コール翌日物 |
長期金利→長期プライムレート→長期金利→国債10年の金利 |
各銀行の住宅ローン金利
では実際の住宅ローンの金利が、どこの金融機関も同じ金利になっているかというとそうではありません。参考にしている指標は各金融機関とも同じであっても、各金融機関毎に独自の金利を設定しています。
現在では、バブルの頃と違って企業向け融資などでは利ザヤが稼げない時代ですから、各金融機関にとって担保も取れる住宅ローンは魅力的な貸出先です。現在の低金利な環境に加えて、各金融機関が低金利競争を行っていることも影響して金利はどんどん下がっています。
変動金利 | 固定金利 | 手数料 | 団体信用生命保険料 | |
住信SBIネット銀行 | 0.415% | 1.060%(10年) | 元金×2.2% | 全疾病保証まで無料で付帯 |
auじぶん銀行 | 0.410% | 0.55%(10年) | 元金×2.2% | 不要 |
ジャパンネット銀行 | 0.399% | 0.620%(10年) | 元金×2.2% | 不要 |
りそな銀行 | 0.47% | 0.650%(10年) | 元金×2.2% | 不要、特約で保証範囲が業界NO1 |
三菱UFJ銀行 | 0.525% | 0.39%(3年) | 元金×2.2% | 不要 |
三井住友銀行 | 0.475% | 1.0%(10年) | 元金×2.2% | 不要、共働き世帯向けのクロスサポート |
横浜銀行 | 0.440% | 0.715%(10ね) | 元金×2.2%+33,000円 | 不要 |
ARUHI | ‐ | 0.55%(全期間) | 元金×2.2% | 金利+0.28% |
金利だけでなく、各行にそれぞれ特徴があります。比較する際のポイントは表面的な金利だけで比較しないことです。
多くの銀行では金利の他に保証料や融資手数料などが必要になります。銀行によってこの料率が違う場合もありますし、繰上げ返済をした場合に戻ってくる場合と戻ってこない場合があります。
もう一つは団体信用生命保険です。住宅ローンを借りる場合は金利だけに目がいってしまいますが、団体信用生命保険の保障範囲はとても重要です。
自分の健康状態だけでなくがんなどは遺伝もありますから、どこまでの保障が必要か、また団信と同時に生命保険の見直しを検討するなど、幅広に比較することが大切です。
このあたりの話については、後ほど詳しく解説をしていきます。
今後の住宅ローンの金利予想
住宅ローンを新しく借りる方や、現在借りている方にとってやはり今後の金利動向が気になるでしょう。
変動金利と長期金利の参考となる指標は先ほど説明しましたが、この指標がこれからどのように推移していくかは住宅ローンを借りている方にとってはとても重要です。
住宅ローンの金利に影響を与えるのは変動金利であっても固定金利あっても、足元の景気と今後の景気見通しが大きな影響を及ぼします。
2020年現在日本の景気動向は芳しくありません。景気動向を判断する指標には様々なものがありますが、その一つに物価上昇率があります。
現在の日本の足元の物価上昇率は日銀がマイナス金利を始めた頃の目標としていた2%には及びません。また昨年までは景気の良かったアメリカなども、中国との貿易摩擦の影響で景気が減速傾向にあるため金利引き下げに転じています。
このような状況を踏まえると日本の低金利政策は当面続くと予想されます。まずはアメリカなどの各国の景気が良くなり、その後日本の物価などが力強く上昇してきたタイミングで政策金利は反転し、住宅ローン金利が上昇するでしょう。
今後の経済イベント
現在の日本の景気は低迷しており、当面は金利の上昇は見込めないのは説明した通りです。しかしこの状況がいつまでも続くとは限りませんし、金利情勢は様々な要因で変動します。今後の金利情勢に影響を及ぼしそうなイベントを見ていきましょう。
マイナス金利
現在の低金利の理由は、日銀が行っているマイナス金利政策に大きく影響を受けています。今後住宅ローンの金利が上昇するタイミングとしては、現在のマイナス金利政策が方向転換する時期と言えるでしょう。
マイナス金利政策は景気の刺激を狙いとして2016年に導入され、既に4年経過しています。導入当初の日銀の目標の一つして、物価上昇率2%というものがありました。
物価が上がるというのは家計にとってはあまり喜ばしいことではないように感じますが、経済にとっては緩やかな物価上昇が好景気の裏返しとされています。では実際マイナス金利が導入された後、物価は上がっているでしょうか。
参照:総務省統計局「消費者物価指数」より抜粋
ご覧の通り2016年にマイナス金利が導入されてからも、目標の2%へは一度も届いていないのが現状です。実際日銀の発表でも現在の低金利政策を当面の間は続ける旨の発表がされていますから、現在の住宅ローンの低金利も当面は続くことが予想されます。
優遇幅の縮小
住宅ローンの金利の仕組みは先ほど説明しましたが、実は変動金利の店頭金利は10年近く2.475%から動いていません。
にもかかわらず毎月のように金利が下がっているのは、銀行間の競争がもう一つの理由です。住宅ローンの実際の借入金利は次のようにして決まります。
実際の借入金利=店頭金利−優遇幅 |
足元の金利が低下し続けているのは、この優遇幅を各銀行がどんどん広げているためです。何故かと言うと住宅ローンが銀行にとって優良貸出だからです。
銀行のビジネスモデルは預金や市場から資金を集めて、融資などの利息で収益を生み出すのが原則です。融資先には住宅ローンだけでなく、企業向け融資など様々な種類があります。
しかし、現在の低金利環境では無担保で金利の低い企業向け融資よりも、担保のある住宅ローンの方が銀行にとっては優良な貸出先なのです。
そのため、各銀行が住宅ローン貸出を伸ばすために毎月のように優遇幅を広げて顧客獲得競争を広げているのが現状です。しかし現在のような住宅ローンの金利では、銀行はほとんど利益が出ない水準まで下がっています。
加えて長引くマイナス金利の影響で銀行の経営状況はあまり良いとは言えず、一部の地方銀行では赤字が続いているところもあります。
以上のことから現在の優遇幅がいつまでも続くとは限らず、優遇幅の縮小による金利の上昇の可能性はあるでしょう。
変動金利と固定金利、どちらが良い?
変動金利と固定金利、どちらを選ぶかは住宅ローンを借りる場合の大きなテーマです。それぞれの金利の仕組みやメリット・デメリットについては先ほど説明しましたが、実際にはどちらを借りる方が多いのでしょうか。
参照:住宅金融支援機構「民間住宅ローンの実態調査」より抜粋
現在の低金利の影響もあって、年々変動金利を選ぶ方が増えているのが分かります。変動金利と固定金利を選んだ場合、どれくらい金利差があり、どれくらい金利が上がると固定金利の方が得になるでしょうか。
2020年2月現在の金利水準では変動金利は0.45%程度の水準が多く、全期間固定のフラット35は1.28%となっていますのでそれぞれの金利で3,500万を35年借りた場合の支払利息を比べてみましょう。
変動金利0.45%で借入、35年間金利が変わらなかった場合の総支払利息=2,834,902円 |
全期間固定金利1.28%で借入した場合の総支払利息=8,441,420円 |
当初借入した変動金利が変わらなければ、約560万程度変動金利が得をすることになります。続いて、途中で金利が上昇した場合の検証をしていきましょう。
0.45%で借入、10年後に0.95%、20年後に1.45%へ金利が上がった場合(35年で1%上昇) | 5,171,947円 | < | 8,441,420円 |
0.45%で借入、10年後に1.45%、20年後に2.45%へ金利が上がった場合(35年で2%上昇) | 7,650,763円 | < | 8,441,420円 |
0.45%で借入、10年後に1.7%、20年後に2.95%へ金利が上がった場合(35年で2.5%上昇) | 8,943,687円 | > | 8,441,420円 |
0.45%で借入、10年後に1.95%、30年後に3.45%へ金利が上がった場合(35年で3%上昇) | 10,272,616円 | > | 8,441,420円 |
上記のように借入期間中継続的に金利が上昇するとすれば、35年間で2.5%以上金利が上昇かどうかが、変動と固定の損益分岐点になります。
では35年間で2.5%もの金利上昇が有り得るかどうかが気になるところですが、これまでの住宅ローンの変動金利推移を見るとバブル以降30年以上ほぼ金利は動いていません。なので過去の推移は参考にならないと言えるでしょう。
日本の推移が参考にならないので、先進国の代表であるアメリカの金利を見てみましょう。
参照:時事ドットコムニュースより抜粋
ご覧のようにアメリカの金利は2016年頃から2019年にかけて2.5%程度上昇し、その後反転に転じています。日本に比べるとアメリカは資源も人口も多く、経済も活発な国ですから比較にはならないかもしれませんがそのアメリカであっても長らく低金利が続き、ようやく上昇したものの2.5%程度の上昇にとどまりました。
もちろん住宅ローンの場合は35年間の長期にわたりますから、これ以上金利が上がらないという保障はどこにもありませんが今のような低金利が続くとするならば変動金利を選択することはメリットがあると言えるでしょう。
一方で現在のような低金利が35年間続くのも考えにくく、金利上昇局面に差しかかったタイミングで固定に切り替えるなどの対応も必要です。
このように変動金利を選択する場合は、常に金利動向をチェックしておく必要があります。しかし、35年間も常に金利をチェックするのは中々大変ですし、金利の動きで一喜一憂するのも面倒だという方もいるでしょう。
そのような考えの方は、固定金利の方が向いていると言えるでしょう。
金利だけで判断するのは危険!
これまで住宅ローンの金利について詳しく説明をしてきましたし、住宅ローンにおける金利はとても大切な要素です。
しかし単純に〇%という金利の低さだけで決めてしまうのは危険です。住宅ローンを借りる場合、金利以外にも費用がかかる場合も多いです。住宅ローンを比較する場合は、金利だけでなく全ての費用を含めて検討することが大切です。
保証料や融資手数料
一般的な住宅ローンでは、保証料や融資手数料と呼ばれる費用がかかります。名目や料率はそれぞれ違いますが、数十万単位の費用が必要になりますから、この点は良く確認しておくようにしましょう。
銀行は各銀行毎に保証会社があり、住宅ローンを借りる場合は保証会社が保証人になります。保証会社があることで連帯保証人無しで住宅ローンが借りることが出来るようになりますし、住宅ローンの審査は実は保証会社が行っている場合も多いです。実際に各銀行毎に次のような保証会社があります。
三菱UFJ銀行 | 三菱UFJ住宅ローン保証株式会社 |
みずほ銀行 | みずほ信用保証株式会社 |
りそな銀行 | りそな保証株式会社 |
三井住友銀行 | SMBC信用保証株式会社 |
保証料や融資手数料は銀行によって金額違いますが、借入金額×2%程度かもしくは金利に上乗せする場合は0.2%程度の場合が多いです。
住宅購入時の費用の中でも大きな割合を占めますので、必ず確認するようにしましょう。
団体信用生命保険
団体信用生命保険とは、住宅ローンを借りると付与されてくる保険です。多くの住宅ローンでは保険料は金利に組み込まれており、借りている方が亡くなった場合などは保険が適用になり住宅ローンの残高が0になります。
ここで注意したいのは、金融機関によっては団体信用生命保険料が別になっている場合もあることです。表示金利が低くても団体信用生命保険に加入する場合には、別途金利が0.2%~0.3%上乗せになる場合もあるので、実質の金利を確認して比較することが重要です。
また最近では様々な種類の団体信用生命保険があります。通常の団体信用生命保険よりも保証範囲を広くする代わりに、金利が高く設定してあるものが一般的です。住宅ローンは35年もの長期間をかけて返済をします。
30歳で借りても完済する頃は65歳ですから、その間に一度も病気にならない方が珍しいでしょう。万が一のことを考えて、団体信用生命保険は慎重に検討した方が良いです。金融機関毎に様々な団体信用生命保険の商品がありますが、その一部を紹介します。
団信の種類 | 保障内容 | 金利上乗せ | 取扱い銀行 |
3大疾病付団信 | がん、脳卒中、心筋梗塞 | +0.3% | 多数の銀行 |
7大疾病付団信 | 3大疾病、高血圧疾患、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変 | +0.3% | 三菱UFJ銀行 |
8大疾病付団信 | 3大疾病、高血圧疾患、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎 | +0%(楽天銀行)、 +0.3%(イオン銀行) | 楽天銀行、イオン銀行 |
11大疾病付団信 | 3大疾病、高血圧疾患、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎、大動脈瘤・大動脈解離、上皮内新生物、皮膚の悪性黒色腫以外の皮膚がん | +0.3% | じぶん銀行 |
全疾病保証付き奥様ワイド | 8大疾病、すべての病気や怪我で就労できない場合、奥様のガンなど | +0.4% | 静岡銀行、三井住友信託銀行 |
他にも、住宅ローンを借りた後の繰上げ返済や金利の切り替えなどの手続きにも事務手数料などの費用が必要になります。
これらの費用は金額が大きなものではありませんが、長い取引になりますから事前に確認しておくとよいでしょう。
このように住宅ローンを選ぶ際は、表面的な金利だけでなく実質金利で比較するようにしましょう。
住宅ローンの金利推移のまとめ
今回住宅ローンの金利推移について下記の内容を中心に説明してきました。
- 住宅ローンにおける金利とは銀行に払う手数料のようなものであり、金利が0.1%違うだけでも支払い金利は大きく違う
- 金利には変動金利と固定金利、また返済方法には元利均等方式と元金均等方式がある
- 住宅ローンの金利はバブル崩壊以降低金利が続いており、現在でも銀行間の競争もあって毎月金利が下がっている
- 住宅ローンの金利は各銀行が独自に決めているが、変動金利は無担保コール翌日物、固定金利は国債10年金利を指標にして決められている
- 今後の住宅ローン金利は、低金利政策が続く限りは低金利が続くことが予想される
- 変動金利と固定金利は、今のような低金利政策が長く続く場合は変動金利の方がメリットがある
- 住宅ローンを比較する場合は、表面的な金利だけでなく事務手数料や団体信用生命保険なども比較して検討する
マイホームを購入する際は、物件だけでなく様々なことを決めなければなりません。しかし物件のことばかりに目が行ってしまい、住宅ローンなどはどうしても後回しになってしまいがちです。
しかし、後悔しないマイホーム選びには住宅ローンもしっかりと比較検討することが大切です。今回の記事が住宅ローンで悩んでいる方の参考になれば幸いです。