相続で受け継いだり、節税や投資目的で賃貸マンションを保有している方もいるでしょう。生涯住み続けることが目的のマイホームと違って、賃貸マンションは経済的なメリットを得ることが目的で保有するケースが多いです。そのため自宅と違って、物件の売却を検討する場面も多いでしょう。
賃貸マンションの売却は、マイホームの場合とは大きく違います。今回の記事では賃貸マンションの売却について、流れや税金について詳しく解説をしていきます。
賃貸マンションの売却の流れ
賃貸マンションを保有している方にとっては、売却という選択肢は高い可能性で訪れます。
節税や投資などの目的を達成したタイミングもあれば、売るつもりがなかった物件でも買いたいという話がある場合もあります。急に資金が必要になったので、急いで売るケースもあるでしょう。
このように賃貸マンションはマイホームと違い、持ち続けるよりはどこかのタイミングで売却を検討することが多いです。保有している賃貸マンションを売却する際、どのような流れで売却活動を行えば良いでしょうか。賃貸マンションを売却する場合の流れは下記の通りです。
- 売却する理由や時期、売却価格などを整理する。
- 売却する物件の相場を調査したり、物件を売却するタイミングを見極める。
- 不動産会社を見つけて、売却の依頼をする。
- 不動産会社と相談し、売却方法や売却金額を決める。
- 売却活動を始める。
- 購入希望の人が現れたら、価格や条件交渉をする。
- 価格や条件などの交渉がまとまったら、買主と売買契約をする。
- 物件を買主に引き渡す。(代金と引き換えに登記を変更し、権利証や鍵などを渡す)
全てが同じではありませんが、概ね上記のような流れで売却が進みます。簡単に言ってしまえば、不動産会社に相談をして買いたい人を探して売るだけなのですが、上記の流れの中で1についてはしっかりと抑えておきましょう。
保有している物件の売却を進めるとき、すぐに動くことも大切ですがそれと同時に売却に関する優先事項を整理しておきましょう。
何故その物件を売却するのかを考え、その目的を果たすためにはいつまでにいくらだったら売っても良いかという点を整理します。そして買主との交渉の中で時期を優先するのか、それとも価格を優先するのかを整理しておくことで後で後悔することを極力防ぐことが出来ます。
賃貸マンションを売却した際の税金
首尾よく賃貸マンションが売却出来ても、それで手続きは終わりではありません。不動産を売却した場合は、税金に関する手続きをする必要があります。ここでは、賃貸マンションを売却した場合の税金と手続きについて見ていきましょう。
確定申告は必要?
不動産を売却した場合、まず気になるのが確定申告をすべきなのかどうかでしょう。会社勤めのサラリーマンにとって、確定申告は聞いたことがあっても縁のない手続きです。そもそも確定申告とは、誰がどのような時期に行うべき手続きでしょうか。
確定申告とは
確定申告とは個人の1年間の所得を税務署に申告して、所得税を納める手続きのことを言います。所得税とは個人の所得(≒収入)に対する税金ですが、税金にはたくさんの種類がありその納め方も違います。
所得税や法人税・相続税は申告納税制度と言って、納税する人が自ら申告をして、納税をする必要があります。一方で、住民税や固定資産税などは賦課課税制度といって税額が計算されて請求されます。
つまり確定申告とは、申告納税制度がとられている所得税において、自らの所得を申告して税額を確定させる手続きのことを言います。そのため、所得(≒収入)が有る方は全て確定申告の対象となる訳ですが、会社勤めのサラリーマンの方は確定申告をされていない方の方が圧倒的に多いです。
何故かというと、会社が代わりに納税手続きを代行してくれているからです。このとき会社は納めるべき税金を毎月の給料から差し引いており、これを源泉徴収と言います。
そして年末になるとお金が戻ってくる年末調整は、差し引きしすぎた税金分を戻すことを言います。サラリーマンであっても、確定申告が必要になる場合もあります。具体的には以下に該当するケースです。
- 給与収入が2,000万円を超える場合
- 2か所以上から給料をもらっている場合
- 給与収入以外の所得が20万円を超える場合
- 住宅ローン控除、医療費控除などの控除を受ける場合
などがあります。賃貸マンションを売却した場合は、譲渡所得が発生することになるので基本的には確定申告が必要になります。
譲渡所得とは
続いて、譲渡所得について見ていきましょう。譲渡とはあまり聞きなれない言葉ですが、売却と読み替えると分かりやすいでしょう。不動産の譲渡所得は下記の計算式で計算します。
【譲渡所得】
譲渡所得=収入金額−取得費-譲渡にかかった費用 |
上記の計算式で算出した所得に対して課税される訳ですが、不動産の譲渡所得は分離課税といって他の収入とは分けて税金が計算されます。税金を算出する税率は下記の通りです。
【短期譲渡所得】
譲渡所得×39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%) |
【長期譲渡所得】
譲渡所得×20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%) |
売却した不動産を保有していた期間によって短期譲渡と長期譲渡に分かれます。売却した年の1月1日の時点で5年未満の場合は短期譲渡、5年を超えている場合は長期譲渡になります。
賃貸マンションを売却して利益が出た場合は、上記のように確定申告をして納税をする必要あることに注意しましょう。ちなみに購入した価格よりも安く売却した場合は、譲渡損が発生するので所得税はかかりません。
この場合確定申告する義務はありませんが、確定申告をすることで譲渡損を他の所得と通算できる損益通算が可能になるので、やはり確定申告は行った方が良いです。
取得費とは
所得を計算する際の計算式で、収入は売却金額になりますが取得費とはどの金額を指すでしょうか。取得費とは基本的には売却した賃貸マンションを購入した際の金額ですが、他にも取得費に含めることの出来る費用もあります。具体的には下記のものが取得費に含めることが出来ます。
- 物件(土地・建物)の購入代金
- 購入時の仲介手数料
- 測量費
- 増改築費用
- 土地の整地・造成費用
- 借入金の利子
などがあります。取得費は多い方が結果として税金は安くなるので、確定申告の際には漏れのないように注意をしましょう。相続などで引き継いだ物件で、取得費が不明な場合もあるでしょう。そのような場合はみなし取得費として、売却価格の5%を取得費とすることも出来ます。
ここで注意が必要なのが、物件の購入代金は土地と建物で計算方法が異なることです。土地はそのまま購入代金を計算すれば良いですが、建物の場合は減価償却を考慮する必要があります。
減価償却とは
建物のなどの価値は新築で建てた状態が一番高く、年数の経過に応じて下落していきます。そのため建物の評価額は毎年一定の金額を減価して計算します。このように毎年建物の金額を減価していくことを減価償却と言い、建物の取得費を計算する場合は減価償却費を差し引く必要があります。減価償却は下記の計算式で計算します。
【1年間の減価償却費の計算】
減価償却費=建物購入費×償却率 |
償却率は建物の構造や、事業用や非事業用かで違いますが賃貸マンションの場合は下記になります。
構造 | 償却率 |
木造 | 0.046 |
軽量鉄骨 | 0.038 |
重量鉄骨 | 0.030 |
SRC造・RC造 | 0.026 |
例えば建物の購入費が5,000万円の木造物件を、5年後に売却した場合の取得費を計算してみましょう。
1年間の減価償却費=5,000万円×0.046=230万円
5年間の減価償却費=230万円×5年間=1,150万円 5年後の取得費=5,000万円-1,150万円=3,850万円 |
上記のように建物の取得費は5,000万円でなく3,850万円になります。
消費税はどうなる?
消費税と言うと、何か商品を買う時に一緒に払う税金のイメージが強いでしょう。消費税は商品を購入する側の消費者が払い、商品を売る事業者側が売上に応じた消費税を納税します。
不動産を売却した場合、利益が出たら所得税が課税される訳ですが、消費税も同じように課税されるでしょうか。
課税事業者とは
まず不動産の場合、土地には消費税がかかりません。そのため消費税がかかるとすると、建物のみになります。そして建物を売却した場合消費税がかかるかどうかは、売却した方が消費税の課税業者かどうかで決まります。
消費税の納税義務があるのは、課税事業者と言われる事業者だからです。逆を言えば、課税業者に該当しなければ消費税は発生しないことになります。
消費税の課税業者になるかどうかは、個人・法人ともに課税売上が1,000万円以上あるかどうかで判定します。この課税売上の判定は個人の場合は前々年、法人の場合は前々年の事業年度の売上で判定します。普段は給与収入のみで、賃貸マンションを1度売却した場合などは課税業者には該当しないので消費税は発生しません。
ちなみに課税売上とは物品の販売などの事業収入全般を言いますが、賃貸マンションなどの家賃収入は課税売上には入りません。しかし物件が店舗や事務者などに貸している商業ビルの場合は、賃料収入は課税売上になる点にも注意が必要です。
前々年の課税売上が1,000万円以上 | 課税事業者に該当 | 消費税が必要 |
前々年の課税売上が1,000万円未満 | 課税事業者に非該当 | 消費税は不要 |
賃貸マンションを高く売るコツ
賃貸マンションを売却するには様々な事情がありますが、やはり高く売れた方が良いでしょう。不動産の売却は買主との交渉によって金額が変わりますから、同じような物件であっても交渉や売り方によって値段は違います。賃貸マンションを売る際に、高く売るコツを見ていきましょう。
利回りを良くする
賃貸マンションはマイホームと違って、賃料収入を目的として購入する場合が多いです。買主にとっては同じ金額の物件であれば、賃料収入の高い物件の方が魅力的です。物件の購入金額に対して、どれだけの収入があるかを判定する基準として利回りがあります。
賃貸マンションの販売チラシによく「利回り〇%」と書かれているのを見たことのある方も多いでしょう。賃貸物件を購入する買主はこの利回りを基準としていますので、売却する際にはこの利回りを良くすることで高く売れる可能性があります。利回りは次のように計算をします。
【利回り】
利回り=年間の賃料収入÷不動産の購入価格×100 |
マンションに空室があれば、入居者を募集して売却することで利回りが高くなります。建物の設備に故障があったり、清掃が行き届いていないと賃料は下がりやすいため、物件の管理を見直して賃料を上げることも大切です。費用はかかりますが、室内のリフォームを行ったりすることも重要です。
信頼出来る不動産会社を探す
不動産を売却する際に、実際に買主を探すのは不動産会社です。そのためどの不動産会社に売却を依頼するかは、とても重要です。一口に不動産会社と言っても、それぞれに特徴があり得意な物件やエリアが違います。マイホームを中心に取り扱っている不動産会社もあれば、賃貸が中心の不動産会社もあるでしょう。
売却する賃貸マンションのあるエリアに強く、かつ賃貸物件の売買に慣れている不動産会社を見つけることが大切です。担当者が信頼できるかどうかも重要なポイントです。
成約を急ぐあまりに値引きを要求してきたり、物件の悪い点を隠して売却するような悪い担当では、信頼して売却をまかせることは出来ません。複数の不動産会社を回って、信頼できる担当者を探しましょう。
相場を調べる
賃貸マンションを売却する際には、必ず周辺の相場を調べましょう。周辺の相場を調べることで、売却しようとしてる物件の適正な相場が分かります。相場が分かっていれば、安く売ってしまって後で後悔するような事も防げますし買主との交渉も強気に行うことが出きます。
賃貸マンションの相場を調べる場合、先ほど紹介した利回りを参考にすると良いでしょう。賃貸不動産の場合、エリアによって利回りの相場は大きく違います。下記の資料は賃貸マンションを買う投資家が、これぐらいの利回りがほしいと期待している期待利回りの地域別のデータです。
参照:一般財団法人日本不動産研究所「不動産投資家調査2019年10月」より抜粋
このようなデータなどを参考にしながら相場を確認しましょう。もう一つ相場を知るのにおすすめな方法が、不動産の無料査定を活用する方法です。
専門の不動産会社が物件の価格を査定してくれますので、売却する場合にはとても参考になります。無料査定を行う場合は、必ず複数社の査定を取るようにしましょう。複数社の見積もりを比べることで、正しい相場の確認をすることが出来ます。
賃貸マンション売却のまとめ
今回の記事で賃貸マンションの売却について下記の内容を中心に解説してきました。
賃貸マンションの売却の際には税金が大きく関係してくるので、内容をよく理解して確定申告など漏れのないように行いましょう。また売却に伴い物件の査定を行う場合、下記のような一括査定を利用すると良いでしょう。複数社に一件一件依頼をする手間が省略できるので、オススメです。
今回の記事が賃貸マンションの売却をされる方の参考になれば幸いです。