マンションに住んでいる方であれば、大規模修繕は一度は耳にしたことのある単語でしょう。しかし、大規模な修繕工事とはどのような工事を指して、費用や周期はどれくらいなのか知らない方も多いです。
今回の記事ではマンション住まいの方には、切っても切れない大規模修繕工事について詳しく解説をしていきます。
マンション大規模修繕工事の費用は?
マンションに住んでいる方にとっては切ってもきれない大規模修繕工事ですが、その費用はどれくらいかかるでしょうか。
大規模修繕というその言葉から、大規模な改修工事を連想して費用も高額になるイメージを連想しますが実際の費用はどの程度かかるでしょうか。まずは大規模修繕工事の費用について見ていきましょう。
大規模修繕工事の費用平均
大規模修繕工事にかかる費用はマンション規模や築年数などに大きく変わりますが、一般的な平均価格としては1戸あたり100万円と言われています。
しかし大規模修繕工事の金額は工事の内容や建物の状況によっても変わりますので、1戸あたり75~125万円程度と幅を持って予定しておくと良いでしょう。50戸あるマンションであれば、3,750万円~6,250万円程度が相場になります。
実際に大規模修繕工事を行った実績を、国土交通省がまとめた資料によると下記のようになっています。
参照:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」より抜粋
上記の表によると大規模修繕を行ったマンションの内、1戸当たり75~100万円が30.6%と一番多くなっています。次いで、100~125万円が24.7%となっており、概ね75~125万円以内のケースが一番多いことが分かります。また大規模簿修繕工事を行うのは1回ではありません。何回目の大規模修繕工事かによっても費用は変わり、それを集計したものが下記になります。
参照:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」より抜粋
1回目の大規模修繕工事の総平均で1戸当たり100万円、2回目では97.9万円、3回目では80.9万円と回数を重ねるごとに平均費用が下がっていることが分かります。大規模修繕工事は建物の劣化の程度に応じて行われるため、基本的には年数が経過するほど改修する部分が多くなります。
しかし3回目以降の平均で金額が下がっているのは、建て替えを見据えて修繕工事の内容を押さえているケースや、築年数が経過したマンションの場合は修繕積立金が不足していることが要因と考えられます。
何故大規模修繕工事が必要か
そもそも何故マンションに大規模修繕が必要なのでしょうか。その一番の理由は、建物の劣化を防ぐことにあります。マンションの多くは鉄骨鉄筋コンクリートで出来ており、その構造は木造などと比べると非常に堅固です。
しかしどれだけ頑丈な建物であっても、年数が経過すると外壁などにヒビが入ってしまいその隙間から雨が染み込んでしまって中の鉄が腐ってしまいます。そうなってくると建物の構造は弱くなり、建物そのものが長持ちしなくなってしまいます。
このようなことを防ぐために行うのが、大規模修繕工事です。定期的に大規模修繕工事を行うことで劣化を修繕し、建物の価値を高めることに繋がります。
具体的な工事の内容はマンション毎の劣化の状況を見て決めますが、代表的な工事内容は下記のようなものがあります。
外壁工事 | 外壁がタイル張りの場合は、タイルの浮きなどを確認して補修をします。タイル張り以外の場合はひび割れなどがあれば水が染み込んでしまうので、下地補修や塗装を行います。 |
防水工事 | 屋上やバルコニー、共用の廊下などに防水塗装や防水シートなどの工事を行って、水漏れを防ぎます。 |
鉄部塗装 | バルコニーの手すりやエレベーター、共用の階段などの鉄の部分や、機械式駐車場などに防錆塗装や表面塗装を行います。 |
シーリング工事 | 外壁などのつなぎ目に使われているゴム状のシーリング材の補修や交換を行います。 |
配管工事 | 上下水道の配管も年数の経過で劣化します。劣化を防ぐための洗浄や補修、交換を行います。 |
その他 | エレベーターの交換や、機械式駐車場も新しいものに交換をして改良する場合もあります。オートロックなどの共用設備や共用庭なども修繕や改良を行います。 |
マンション大規模修繕工事を行う周期
マンションの価値を高め、長持ちさせるためには欠かせない大規模修繕工事ですが、一度やれば良い訳ではありません。マンションの価値を高い状態に保つためには、やはり定期的な大規模修繕が必要です。しかし費用も高額になる大規模修繕ですから、計画的に行う必要がります。大規模修繕工事はどのくらいの周期で行うの良いでしょうか。
一般的には12年周期と言われている
マンションの大規模修繕を行う周期は、一般的には12年が良いとされています。何故12年が一般的とされているかについては様々な理由がありますが、大きく次の2つがあります。
国土交通省のガイドライン
大規模修繕工事を行うには、マンションの住民同士が協力して計画的に行う必要があります。しかしマンション毎の事情もあるため、足並みを揃えて計画的に行うことは容易ではありません。そのため国土交通省は大規模修繕を行うにあたって、計画的に行えるようにガイドラインを制定しています。
そのガイドラインの中で、下記のように大規模修繕は12年周期で行うのが良いとされています。
参照:国土交通省「長期修繕計画ガイドラインコメント」より抜粋
このガイドラインは平成20年に制定されたもので少し古いのですが、これが発表される前までの大規模修繕の周期は10年が一般的とされていました。しかし、このガイドラインの発表後は12年がが一般的になったとされています。
全面打診調査の影響
上記の国土交通省のガイドラインに加えて、建築基準法では外壁の全面打診調査を行うことを築10~13年の間に行うことを義務づけています。建築基準法とは建物を安全・安心に利用するために、建物の構造や用途などについて定めた法律です。建築基準法の第12条では下記のように定めています。
【建築基準法】
第十二条 建築物で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして特定行政庁が指定するものの所有者は、これらの建築物の敷地、構造及び建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築物調査員資格者証の交付を受けている者にその状況の調査をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。 |
参照:政府の総合窓口e-GOV「建築基準法」より抜粋
上記のように建築基準法では、定期的に建物の検査を行い報告をすることを義務付けています。この報告制度について国土交通省が平成20年の告示で次のように定めています。
竣工後、全面的なテストハンマーによる打診等を実施した後10年を超え、かつ3年以内に落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的なテストハンマーによる打診等を実施していない場合にあっては、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分を全面的にテストハンマーによる打診等により確認する。 |
参照:国土交通「告示282号」より抜粋
少し分かりにくいですが、上記の2つの条文によって全面打診検査を築10~13年までの間で行い、報告することを義務付けています。その全面打診検査を行うには、手の届く範囲以外での異常があった場合には足場を組んで全面を調査する必要があります。足場を組むとなるとマンションの規模にもよりますが100万円以上の費用が必要になります。
そうなるとマンション側としては足場を組むのであれば、調査だけでなく大規模修繕を行った方が良いと考えますから結果として築12年程度で大規模修繕を行うことになります。
実際の事例はもう少し長い
上記のような理由から12年程度の周期で行われた方が良いとされている大規模修繕工事ですが、実際に工事が行われている期間はもう少し長いです。国土交通省が行った調査では、実際に大規模修繕を行った時期は下記のようになっています。
参照:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」より抜粋
1回目の大規模修繕を行った時期の平均は16.3年と目安の12年よりも長めの水準となっています。しかし。2回目の大規模修繕となると少し周期が短くなっており、29.5年と1回目の16.3年から13年後が平均値となっています。更に3回目は40.7年と、2回目の29.5年からだと11年後と更に周期は短くなっています。
このように目安の12年に比べると、実際に大規模修繕が行われている時期は少し長めになっています。しかし回数を重ねるごとに周期が短くなっているのも特徴です。これは、年数が経過するほど建物の劣化が激しくなるためで、比較的早めに大規模修繕が必要になることを表しています。
マンション大規模修繕工事の進め方
大規模修繕工事の必要性や費用などについてこれまで説明してきましたが、ここでは実際に大規模修繕を行う場合の流れを見ていきましょう。大規模修繕工事はこれまで見てきたようにとても高額になる事業です。そのため、工事を行うためには住民同士の協力と計画が重要です。
体制の準備を行う
マンションの大規模修繕を行うには、住民同士が一致団結することが重要です。そのためには、まずは大規模修繕工事の必要性を住民が理解する必要があります。多額の費用をかけても、大規模修繕を行う必要があることについて勉強会などを行ったりして、住民に理解を求めることが大切です。
そして、管理組合が主導して大規模修繕へ向けた委員会を設置します。希望者などを集めて住民の意見を代表する委員会を作って、大規模修繕工事の計画のスケジュールなどを策定していきます。
その後は委員会が中心となって大規模修繕を進めていきますが、その際に外部のコンサルタントなどに依頼をする場合もあります。
外部のコンサルタントを入れるとその分費用は発生してしまいますが、第三者的な立場で工事のマネジメントなども行ってくれるので住民からも賛同が得られやすいメリットがあります。
建物の調査を行う
委員会や外部のコンサルタント、住民からの意見をもとにして建物に関する問題点を洗い出していきます。
建物に関する不具合などをリストアップして、修繕方法や工事の優先度などを決めていきます。住民からの意見を集める際、全住戸を対象にアンケート調査などを行う場合もあります。
計画の検討を行う
大規模修繕工事において、計画の策定はとても重要です。先ほどの建物の調査の結果を踏まえてどのような修繕を行っていくか、工事の内容や範囲などを決めていきます。またおおよその資金計画についてもこの段階で検討をしておきます。
大規模修繕工事の費用を概算で計算し、修繕積立金で不足をしている場合は各住民からの一時金徴収、または金融機関からの借入などを行う必要があります。
施工業者の選定を行う
概ねの計画が決まったら、次は実際に工事を行う施工業者を選びます。施工業者を選ぶ際には、複数の業者から見積もりを取ってコンサルタントなどの意見をもとに公平に判断をします。
単純な見積もりの金額だけでなく、工事に関するプレゼンなどを通じて、総合的に判断するようにしましょう。施工業者が内定したら、管理組合の総会の決議によって工事金額や工事管理者などを正式に決めます。
着工する
管理組合と施工業者で工事請負契約書を結んだら、いよいよ工事の開始です。工事に入る前には、住民向けに説明会を開催して工事の内容や計画、スケジュールなどを説明しておくようにしましょう。実際の工事が始まったら、委員会やコンサルタントは計画通りに工事が進捗しているかをチェックし、問題が生じた場合は管理組合へと報告を行います。
見直しと今後の計画を決める
工事が終了したら結果を確認して、点検を行います。終了した工事について分析を行って、次の大規模修繕計画などに盛り込んでおきます。コンサルタントや委員会は工事の概要や計画などについてしっかりと記録・保存をしておくようにして、今後の維持管理や次回の修繕計画に備えます。
マンション大規模修繕工事の注意点
これまで説明してきたように、大規模修繕工事はマンションに長く快適に暮らすためにはとても重要な工事です。そのためマンションに住んでいれば、避けては通れないイベントでもあります。大規模修繕工事で失敗しないためにも、ここでは工事を行う際の注意点について紹介します。
知り合いの工事業者に依頼しない
大規模修繕工事において重要なポイントの一つが、施工業者の選定です。どの業者に依頼するかで工事の良し悪しが決まる場合もあります。
そのため、業者の選定は慎重に行う必要がありますが、この際に知り合いの業者などの縁故関係の業者は入れないようにしましょう。
何故なら大規模修繕工事は、マンションの資産価値を左右するとても重要な工事ですから安ければ良い訳ではありません。
また何故その業者にしたのか、住民に対して明確に説明しなければなりません。知り合いの業者で安くしてくれるからという理由では万が一工事に不具合があった際に、反発がおきるのは必至です。
また工事自体は問題がなかったとしても、工事後数年で業者が倒産しその後のアフターフォローが一切受けられない状態になるかもしれません。
このようなトラブルになった際に、しっかりとその業者を選んだ説明責任が求められますから、業者を選ぶ際には相見積もりなどを取って公平に判断をするようにしましょう。
住民同士のトラブルに気を付ける
大規模修繕工事を行うには、住民同士の理解が必要です。大規模修繕工事を行うにあたって、住民同士の足並みが揃わないでトラブルとなるケースもあります。住民の中には、大規模修繕工事の必要性を理解出来ない方もいるかもしれません。
また修繕積立金が不足していた場合、各住民から一時金を徴収する必要がありますが、全員から賛同を得られるとは限りません。修繕委員会を設置するに当たって人数が集まらなかったり、逆に集まりすぎて意見が合わないなどのトラブルもあります。
このようなトラブルを少しでも避けるには、説明会などを通じて大規模修繕工事の必要性を共有することが大切です。
工事をすることが自分たちの住んでいるマンションの価値を高めることにつながることを、少しでも理解してもらうことでトラブルを避けることになります。また前もって長期の計画をたてて、それを周知しておくことで大規模修繕の際に慌てることも少なくなります。
修繕積立金が足りない
近年のマンションでは、毎月修繕積立金の徴収を行っている場合が多いです。しかし修繕積立金は大規模修繕だけでなく、日常的な小規模の改修工事などにも使われます。そのため大規模修繕工事の際に、積立金だけでは費用が足りないケースは少なくありません。その際にはどうにかして費用を捻出するか、費用が貯まるまで工事を延期する必要があります。
費用の捻出方法としては、大きく三つあります。一つ目は各住民から一時金として徴収する方法です。この方法は手早く資金を確保できるメリットがある一方で、ほぼ間違いなく住民から反対が出ます。
二つ目は、金融機関から借入をする方法です。一つ目の一時金として徴収するよりはハードルが低いですが、借入のため金利が発生するのがデメリットです。三つめが修繕積立金の値上げです。一時金で徴収するよりは、住民の一時的な負担が少ないため理解を得られやすいですが、それでも反対意見が出る可能性があります。
また大規模修繕工事が差し迫っている物件には向きません。これらの方法でも資金が捻出出来ない場合は、工事を延期するしかありません。
しかし工事を延期すればするだけ、建物の劣化が進むことになります。そのためこの点においても、住民同士の理解が大切であり説明会などを通じて、工事の必要性について各住民に理解してもらうことがトラブル防止の近道と言えます。
マンション大規模修繕工事のまとめ
今回の記事ではマンションの大規模修繕工事について、下記の内容について解説をしてきました。
マンションに住んでいる多くの方にとって、大規模修繕工事は悩みの種の一つです。積立金が潤沢にあるマンションの方が少なく、資金面のトラブルも尽きません。多くの住民が同じ建物で暮らしているだけに、意見が揃わないことも多いのも大規模修繕の難しい点です。
すこしでもスムーズに行うためには、普段から大規模修繕工事の必要性を住民同士で共有すておくことが大切です。それでも納得出来ない場合や、資金負担が重たい場合は売却を検討するのも一つの方法です。マンションを売却することで、大規模修繕工事に関して悩む必要はなくなります。
しかし一方で、売却してしまうと住み替えしなければならないですから資金面の負担も出てきます。そのため売却の検討を行うには、どれくらいで売却出来るかを知ることが大切です。
その際に役に立つのが、マンション売却ガイドの一括査定です。複数の不動産会社からプロの目で査定をしてもらうことで、大体の売却価格が分かるため検討する際にとても役立ちます。提携している不動産会社も多く、大手から地場不動産会社まで選べるのも魅力です。マンション売却を検討する際には、活用することをオススメします。