マンション売却時によく言われる「現状渡し」とは?そして、現状渡しで売却する際に注意すべき点とは?
現状渡しのポイントをまとめました。
マンション売却の現状渡しとは
まず言葉の意味を理解しておきましょう。
現状渡しと原状回復、明け渡しの意味
不動産業界には独自の言葉があります。今回のテーマである「現状渡し」もそのひとつです。他にもよく似た言葉が出てくるので、この機会に整理しておきましょう。
現状 | 現在の状態のままということ。傷や故障があってもそのままという意味 |
---|---|
現状渡し | 現状(現在の状態のまま)で引き渡し(売却)すること |
原状回復 | 賃貸物件を退去する場合に、借りていた人が壊れた個所や傷・汚れなどを修繕(元のように戻す)すること |
引き渡し | 物件の代金支払いを確認後に購入者に鍵を渡すこと |
明け渡し | 賃貸住宅を退去する際に貸し主に鍵を返却して部屋を引き渡すこと |
マンション売却は現状で引き渡すケースが多い
上の表でもわかる通り、賃貸物件を退去する際には「原状回復して明け渡し」ます。しかし、マンション売却の場合は「現状で引き渡し」ます。そのことを「現状渡し」と言います。
現状渡しは傷や汚れがあっても修繕せずに、そのまま不動産会社に引き渡すことです。
現状とはどの程度までOKなのか?
「現状渡し」つまり「そのままでいいよ」という状態は、どの程度まで許されるものなのでしょうか?
基本的には「とりあえずそのままでOK」と言われています。何も修繕せずにそのままでいいということです。
現状渡しでも不具合は伝えておく
見た目でわかる汚れや傷は不動産会社もすぐに把握できますが、使っていた人でないとわからない点は査定時に不動産会社に伝えておきましょう。例えば次のようなケースです。
- ドアの開閉が固い
- トイレの水の出が悪い
- カーテンレールが一部壊れていて、カーテンが垂れ下がる
- 床の一部がギシギシ言う
これらは後ほどご説明する瑕疵(かし)担保責任にも関係してきます。隠さずに伝えるようにしましょう。
現状渡しでのマンション売却でのトラブル回避~3つのポイント
「現状」と言ってもその程度はさまざまです。現状渡しでマンション売却した場合に後でトラブルになることはないのか、そしてその対策を見ていきます。
マンション売却での瑕疵担保責任
マンションの売買が成立して引き渡してしまえば、元の所有者には一切の責任はないのでしょうか?
決してそんなことはありません。不動産には「瑕疵(かし)担保責任」があります。
瑕疵(かし)担保責任とは
住宅に欠陥があった場合に売り主や施工業者が賠償責任を負う
瑕疵(かし)とは「欠陥」のことです。購入した物件に欠陥があった場合、売り主や施工業者は賠償責任を負うと民法で定めています。このことを「瑕疵担保責任」と呼びます。
民法と品確法の瑕疵担保責任の違い
民法では請負人の瑕疵担保責任は「任意規定」としています。これは責任を負う期間を任意で決めることができるというもので、2年など短期間に設定することができます。
しかし、それ以降で欠陥が見つかった場合に買い主は売り主や施工業者に賠償責任を問えないために、「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」で「新築住宅の売買契約においては、売り主は住宅引き渡し時から10年間は構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分に関しては瑕疵担保責任を負う」と規定しました。
構造耐力上主要な部分とは
構造耐力上主要な部分とは、次の部分を指します。
●基礎・土台
●床板
●柱
●壁・外壁
●梁
●屋根板
●小屋根
など
雨水の侵入を防止する部分とは
雨水の侵入を防止する部分とは、次の部分を指します。
●屋根
●排水管
●開口部(窓など)
●外壁
現状渡しでは瑕疵担保責任は問われない?
現状渡しでの売却の場合に「そのままでいいよと言われたから、瑕疵担保責任は問われないと思っていた」という人がいますが、決してそうではありません。
瑕疵担保責任は買い主が欠陥を知らなかった場合に適用されます。そのため、マンション売却後に瑕疵担保責任を問われないためには、売却時に傷や不具合、欠陥などをすべて明らかにしておく必要があります。
現状渡しでのマンション売却のトラブルを避けるために
売却するマンションの不具合にはさまざまなものがあります。ひと目ですぐに「汚れている」「壊れている」とわかるものもあれば、実際に住んでいる人にしかわからないこともあります。
特にトラブルを避けるには細かく欠陥や不具合を伝えておきましょう。
瑕疵担保責任を問われない3つの対策
トラブルを回避する対策としては、下記の方法が考えられます。
告知書 | マンションの査定時や売却時に物件の不具合などの問題点を「告知書」に書いて不動産会社に渡しておきます。この際には隠さずにすべて記入することが重要です。 |
---|---|
瑕疵担保責任の期間を決める | 売却時に瑕疵担保責任の期間を決めて、契約書に記入しておく方法があります。この期間に何か問題点があれば賠償責任を負いますが、それ以降は問われなくなります。 一般的には3ヶ月などの短い期間を設定することが多いようです。 |
瑕疵担保免責の条項 | 契約書に「瑕疵担保免責の条項」を入れておく方法です。これで何かあった場合でも賠償責任は問われなくなります。 |
瑕疵担保責任の期間を設ける場合でも、瑕疵担保免責の場合でも、売却時には不具合をきちんと伝えておくことがトラブルを避けるためには重要です。
なお、築10年以内の物件の場合は、品確法によって施工業者に賠償責任が問われます。
マンション売却の現状渡しのメリットとデメリット
現状渡しでマンションを売却する際のメリットとデメリットを見ていきましょう。
現状渡しでのマンション売却のメリット
「現状渡し」ということは傷や機器の不具合があったとしても、修繕せずに引き渡すということです。つまり、「修繕費用」や「リフォーム費用」が不要ということになります。
こういった余分な費用がいらないことが現状渡しのメリットだと言えます。
現状のままで売れるのか不安
人によっては「こんなに傷や汚れがある状態で売ると査定額が下がるのではないだろうか。少しは直しておこうか」と思うかも知れません。しかし、どこをどう直せば売れやすくなるかの判断は、とても難しいのが現実です。
また、修繕したからと言って修繕費用を上乗せした価格で売れるとは限らないため、現状渡しが一般的になっています。
現状渡しでのマンション売却のデメリット
古い物件は修繕箇所が多いだけに、査定額が下がるというデメリットがあります。しかし、これは仕方のないことで、上でも書いた通り、直したからと言って高く売れるわけではありません。
不具合があっても売却するために
不具合がある物件や築年数が古い物件は売れにくいものです。しかし、あえて「こういった不具合がありますが、その分、安くしています」という理由で売るという作戦もあります。そのあたりは不動産会社が心得ているので、まずは現状のままで相談してみましょう。
現状渡しでのマンション売却のまとめ
「現状渡し」とはマンションに傷や汚れ、設備の不具合などがあっても修繕せずにそのまま売却することを言います。
現状渡しでのマンション売却には修繕費用がかからないというメリットがありますが、その分査定額が下がる傾向にあるというデメリットもあります。しかし、最近は現状渡しでの売却が増えています。
また、売却後に瑕疵担保責任を問われないためには、次の対策を取っておきましょう。
- 「告知書」に不具合をすべて記入し、きちんと伝えること
- 瑕疵担保責任の期間を設定しておくこと
- または契約書に「瑕疵担保免責」の条項を入れておくこと