さまざまな理由で住宅ローンの返済ができない場合や多額の借金がある場合は、「自己破産」という選択肢があります。
今回は自己破産時のマンション売却について、解説します。
自己破産すると所有しているマンションはどうなる?
「自己破産したら借金の返済は免除されるけれど、財産はすべて没収される」という話をよく聞きますよね。
住宅ローンが残っている場合はどうなるのか、また、マンションの行方はどうなるのかを見ていきましょう。
そもそも自己破産とは
「破産」とは借金が返済できなくなった場合に、債務者(お金を借りている人)の財産を換価処分(現金化すること)し、そのお金で債権者(お金を貸していた人)に返済する手続きのことを言います。
ただ、破産手続きは債権者ではなく債務者本人でも申し立てることができます。そのことを「自己破産」と言います。自己破産は自分から借りている金融機関に申し出るのではなく、裁判所に「自己破産の申し立て」を行います。
裁判所が事情や状況を確認し、破産の決定を出すと借金の返済が免除されます。これを「免責(めんせき)」と言います。
自己破産の種類
自己破産には「破産管財事件」「少額管財事件」「同時廃止事件」の3種類があります。
破産の種類とその特徴
破産管財事件
「通常管財」とも呼ばれます。破産管財人が選任され、破産管財人が財産の調査や換価、配当などを行います。破産予納金が必要です。
少額管財事件
20万円以上の財産がある場合で破産管財人が選任されますが、破産予納金は破産管財事件(通常管財)よりも少額になります。
同時廃止事件
財産がほとんどなく、債権者に分配できるだけの換価財産がない場合の破産手続きを指します。
破産の申し立てと同時に破産手続きが廃止になるため、「同時廃止事件」と呼びます。
同時廃止事件の場合は、破産管財人は選任されず、予納金も少額で済みます。
破産管財人とは
破産管財人とは、破産を申し立てた人の財産の管理や処分を行う人のことで、処分した財産を債権者に分配する役目も持っています。
破産管財人は裁判所が選任し、通常が弁護士が行います。破産管財人は中立な立場で任務を遂行します。
破産の予納金とは
予納金とは自己破産を裁判所に申し立てるときに裁判所に納めるお金のことで、破産手続きの手数料や破産管財人の報酬などに充てられます。
予納金の額は負債額(借金の額)や裁判所によって異なりますが、一般的な額は下記の通りです。
- 負債額が5000万円未満……50万円~70万円
- 負債額が5000万円~1億円未満……80万円~100万円
など
法人の破産で負債額が高額になると、予納金はもっと高くなります。
なお、少額管財事件の場合の予納金は20万円前後、同時廃止の場合は2万円前後です。
自己破産したらマンション売却は誰が行うの?
自己破産の概要をご説明しましたが、次は自己破産した場合のマンションの扱いについて見ていきましょう。
破産申し立てをして「破産手続開始決定」が出ると、破産者の財産は処分して債権者に分配されます。
マンションの扱いは自己破産の種類によって異なる
破産者の財産の管理や処分を行う権利は、破産管財人にあります。ただし、同時廃止の場合は破産管財人が選任されないため、破産者が管理処分権を持ちます。
破産の種類 | 破産管財人 | マンション(財産)の管理処分 |
---|---|---|
破産管財 (通常管財) |
有 | 破産管財人が行う |
少額管財 | 有 | 破産管財人が行う |
同時廃止 | 無 | 破産者(自己破産を申し立てた本人) |
破産管財(通常管財)のマンション売却は破産管財人が行う
上の表のように破産管財(通常管財)や少額管財の場合は、破産管財人が選任されます。破産管財人には破産者の財産の管理処分権が与えられます。その結果、破産者は自己所有のマンションや自動車などを勝手に処分できなくなります。
破産管財でのマンション売却価格は破産管財人が決める
破産管財人は中立的な立場で職務を行います。マンション売却も破産管財人が査定額を調査し、少しでも高く売れるように配慮して手続きを進めます。
同時廃止の場合は破産者が売却できる
同時廃止の場合は、破産管財人がいないため、マンションの売却は破産者自身が行います。しかし、住宅ローンには抵当権が設定されているため、マンション売却で得たお金は、まず住宅ローンの返済に充てられます。これを「別除権」と言います。
別除権とは
自己破産を申し立てる人というのは、多重債務に陥っているケースがほとんどと言われています。つまり、住宅ローン以外にも複数の金融機関(キャッシングやカードローンなど)から借りていたり、知人から借りていたりします。
このように複数から借りている人が自己破産した場合、財産を処分したお金は債権者に分配されます。しかし、住宅ローンには「抵当権」が設定されています。この場合の債権者(住宅ローンを融資している金融機関)のことを「抵当権者」と言い、抵当権者には「別除権」という権利があるため、処分した金額から優先的に支払われるようになっています。
一方、抵当権が設定されていない債権者(無担保ローンや知人からの借金など)は「一般債権者」と言いますが、別除権はありません。そのため、仮にマンションを売却できたとしても、一般債権者への分配は後回しになり、まず住宅ローンの返済に充てられることになります。
別除権がある場合の財産分配例
例えば、A銀行の住宅ローンの残高が2000万円、Bキャッシングの残高が600万円、知人のCさんの借金残高が100万円があるYさんが、返済できないため自己破産が決定したという場合で見ていきましょう。
処分した財産の売却金額の合計が1500万円だった場合、A銀行の住宅ローン返済に700万円、Bキャッシングに600万円、知人のCさんに200万円という形で分配されるというわけではありません。1500万円すべてが優先的にA銀行の住宅ローンの返済に充てられます。それでも完済はできませんが、仕方がありません。
また、1500万円すべてをA銀行の住宅ローン返済に充当したため、それ以外の返済資金はありません。一般債権者であるBキャッシングと知人のCさんには1円も返済されないということになります。
また、Yさんの借金は免責になったために、返済の義務はありません。
同時廃止は破産者のメリットが大きい
このように同時廃止型の自己破産には、「予納金が少ない」「破産管財人が選任されない」「所有財産を自分で売却できる」というメリットがあります。
しかし、所有財産が20万円以上の場合は、同時廃止ではなく少額管財の対象になってしまいます。少額管財は予納金が20万円程度かかる上に、財産の処分権は破産管財人にあります。
マンションを所有していても同時廃止になるケースが!
マンションは高額財産のため、「所有財産の合計金額は20万円超」となり少額管財の対象になります。
ところがマンションの売却価格は購入時よりも低くなっていることがほとんどです。その場合、マンション売却価格よりも住宅ローンの残高の方が高くなってしまいます。
このことを「オーバーローン」と呼びます。オーバーローンの基準は明確ではありませんが、目安は次の通りです。
- 借金の残高がマンション売却価格の1.5倍以上
なお、同時廃止は裁判所にマンションの査定額を提出して、同時廃止での自己破産を申請する必要があります。
マンションの査定額は低い方が同時廃止が通りやすい
同時廃止の申請をする際のマンション査定額は、不動産鑑定士に鑑定してもらった鑑定評価書でなくても大丈夫です。無料の一括査定を利用して、もっとも安い査定額を提示しましょう。
自己破産するときのマンション売却の流れ~まとめ
「どうしても住宅ローンが返済できない」「多重債務になってどうにもならない」という場合は、自己破産という方法があります。
自己破産を申請して破産手続開始決定が出されると借金の返済は免除されますが、自己所有の財産はすべて売却して返済に充てることになります。
自己所有の財産が20万円を超える場合は破産管財人が選任される「少額管財」になり、約20万円前後の予納金が必要です。
しかし、マンションを売却した価格よりも住宅ローンの残高の方が1.5倍以上ある場合は「同時廃止型」の自己破産となり、予納金は2万円ほどに抑えられます。さらにマンションも自分で売却できるというメリットがあります。
同時廃止型の自己破産を申請する際には、マンションの査定額を提示する必要があります。少しでも安い査定額を出すには、一括査定の利用がおすすめです。