老後にマンション売却すると、その年は売却利益を得ることになり年収がUPしてしまいます。
年収が増えると年金受給額が減るというウワサがありますが、これは本当なのでしょうか?
マンション売却が年金受給者に与える影響を知る前に年金制度を理解しよう
マンション売却が年金にどう影響するのかを考える前に、まず年金のしくみを確認しておきましょう。
年金の制度とは
年金制度は現役世代(保険料を負担する側)が保険料を納めて、現役引退後にそれまで納めていた保険料や加入期間に応じて年金が受け取れる制度です。
年金保険料は20歳以上のすべての国民が負担する
日本の年金制度は「国民皆年金」と言って、20歳から60歳までのすべての国民が保険料を負担する仕組みになっています。
保険料を負担する被保険者は働き方などによって、次のように分けられています。
被保険者 | 対象となる人 | 加入する年金 | 負担する保険料 |
---|---|---|---|
第1号被保険者 | 自営業 大学生 など |
国民年金 | 毎月16,260円 (払えない場合は免除制度あり) |
第2号被保険者 | 会社員 公務員 など |
厚生年金 | 月給の17.828%を負担 (半分は会社が負担) |
第3号被保険者 | 専業主婦など | 国民年金 | 本人の負担はなし |
(参考:厚生労働省)
年金の受給者
一方、現役引退後は65歳から年金を受給する側になります。
被保険者 | 受給する年金 | 受給できる年金額 |
---|---|---|
第1号被保険者 | 基礎年金 | (平成29年の年額)779,300円 (保険料を40年間、全額納付した場合) |
第2号被保険者 | 基礎年金+厚生年金 | 月額約154,000円(平均)(保険料を納付した期間や賃金によって額は変わります) |
第3号被保険者 | 基礎年金 | (平成29年の年額)779,300円 (配偶者が加入する年金によって変わります) |
(参考:厚生労働省)
年金受給開始年齢は65歳ですが、厚生年金の加入期間が1年以上あり、老齢基礎年金の受給資格を満たしていれば60歳から特別支給の老齢厚生年金が受けられます。(受給開始年齢は生年月日によって異なります。)
年金受給年齢で収入があると年金が受け取れない!?
60歳で定年を迎えても、まだまだ元気で働く人が増えています。中には年金受給年齢である65歳を迎えても働いて収入を得ている人がいらっしゃいますが、その場合は年金受給額に影響を与えることがあります。
在職老齢年金と高年齢雇用継続給付
60歳以降も厚生年金保険の適用事業所に勤務している70歳未満の人は、年金を受けていても厚生年金保険に加入しなければならないことになっています。その場合、年齢によって年金支給額の扱いが変わります。
60歳~65歳未満 | 在職老齢年金 | 厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る場合 | 月収に応じて年金が全部または一部支給停止になります |
---|---|---|---|
65歳以上 | 在職老齢年金 | 65歳以上で厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る場合 | 65歳未満の人とは別の在職老齢年金のしくみで年金が全部または一部支給停止になります |
60歳以上65歳未満 | 高年齢雇用継続給付と在職老齢年金 | 年金を受けながら厚生年金に加入している人が高年齢雇用継続給付を受ける場合 | 上記の在職による年金の支給停止以外に年金の一部も支給停止されます |
在職老齢年金とは60歳以降も働いている場合、年金の一部または全部の支給が停止される制度のことです。上の表のように65歳未満と65歳以上では扱いが異なります。
高年齢雇用継続給付とは、60歳以降も継続して働く場合に賃金が以前より下がり一定の要件を満たした場合は雇用保険から支給される給付のことです。受給している人には在職老齢年金の支給調整があり、場合によっては年金の一部が支給停止されることがあります。
マンション売却で年収が増えた場合の年金受給者への影響は?
年金受給者でも働いて収入を得ていると、年金額が減額または支給が停止されるということをご理解いただけたと思います。
では、マンション売却で年収が増えた場合、年金の受給額にはどんな影響があるのでしょうか?
マンション売却しても年金受給者に影響はない
年金受給者が受け取る年金額に影響を与えるのは、「労働で得た収入」の場合のみです。
マンション売却で得た収入は労働収入ではないために、年金受給額に影響を与えることはありません。
障害年金はマンション売却収入が影響を与えることも
障害年金とは病気やケガで生活や仕事が制限されるなど一定の障害状態になった場合に支給される年金です。
基本的に年収による所得制限はないのですが、例外として20歳未満で障害を負った場合は所得によって減額される場合はあります。
マンション売却で年金受給者の年金額は減らないが税金はかかる
マンションを売却して収入を得た場合でも年金の受給額が減ることはありませんが、税金はかかります。
次はマンション売却の税金についてご説明します。
マンション売却の収入は譲渡所得税の対象
マンションなど不動産を売却した際に「所得(利益)」が発生する場合は所得税と住民税がかかります。
マンション(不動産)を売却して得る所得のことを「譲渡所得」と言い、それ以外の所得とは分けて計算します。このことを「分離課税」と言い、確定申告が必要です。
マンション売却による譲渡所得の計算方法
譲渡所得は次の計算式で計算します。
収入金額(売却金額)-(取得費+譲渡費用)=課税譲渡所得金額
取得費とはマンションを購入したときの価格、譲渡費用は売却した際に不動産会社に支払った仲介手数料のことです。
マンション売却の譲渡所得の特別控除
売却するマンションが居住用財産の場合は、3000万円の特別控除があります。
居住用財産とは、下記に該当する物件を指します。
-
- 現在、居住しているマンション
- 以前住んでいたマンションの場合は、住まなくなった日から3年目を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
(例:2014年5月1日まで住んでいたマンションは、2017年の12月31日までに売却した場合に控除が受けられます。)
- マイホームの買換えやマイホームの交換の特例若しくは、マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと
自分が住んでいたマンションを売却と同時に引越した場合は、この特別控除の対象になります。一方、投資用マンションで自分が住んでいない場合や賃貸マンションで他人が入居していた場合は特別控除は受けられません。
特別控除が受けられる場合で譲渡所得の計算をしてみましょう。
- マンション購入価格……3500万円
- マンション売却価格……2500万円
- 仲介手数料……30万円
収入金額(2500万円)-(取得費用3500万円+譲渡費用30万円)-特別控除3000万円=譲渡所得(-4030万円)
このように譲渡所得はマイナスになってしまいます。この場合は課税されません。
譲渡所得の税率
もしマンションの購入価格がすごく低かった場合(安く買った場合)やマンションがかなりの高値で売れた場合などで特別控除を受けても利益が出ることがあります。譲渡所得がプラスになったときや特別控除の対象外の場合(居住用ではなく投資用マンションや賃貸マンションの場合など)は税金がかかります。
その際の税率はマンションの所有期間によって、次のように変わります。
所有期間 | 所得税(※) | 住民税 | 合計 | |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30.63% | 9.0% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15.315% | 5.0% | 20.315% |
(※)復興特別所得税(平成25~49年)として所得税の2.1%相当が上乗せされています。
マンション売却が年金受給者に与える影響~まとめ
年金が受給できる年齢になって所得が増えると、受け取れる年金額が減る(または受給停止)のではないかと心配される方が多いようですが、年金受給額が減額(または受給停止)になるのは「労働収入がある場合」だけです。
マンション売却での収入などは、年金の受給額に影響を与えることはありません。
ただし、マンションを売却することで利益(譲渡所得)がある場合は、所得税と住民税がかかります。しかし、居住用のマンションを売却した場合は3000万円の特別控除が利用できるため、ほとんどの場合は課税対象外になります。