不動産業者との媒介契約には、一社を専任に決めてすべてを任せる「専任媒介契約」と、数社の不動産会社と幅広く契約を結ぶ「一般媒介契約」がありますが、専任媒介契約にはさらに「専属専任媒介契約」という契約形態があります。
一般的な専任媒介契約と、専属専任媒介契約とは、何がどう違うのでしょうか?専属専任媒介契約を結ぶと、いったいどんなメリットがあるのでしょうか?
専任媒介契約と、専属専任媒介契約の違いとは?
専属専任媒介契約を結ぶと、自己発見取引ができなくなる!
専任媒介契約と専属専任媒介契約の最も大きな違いは、「専属専任媒介契約を結ぶと自己発見取引ができなくなるが、専任媒介契約ならできる」ということです。自己発見取引というのは、売主が自分で買主を見つけてきて取引を行うことです。
たとえばどんなケースかというと、売主がマンションの隣人とおしゃべりをしていて、「実は夫の転勤が決まって、いまマンションを売りに出しているの」と話したときに、隣人が「あら、それならうちの娘夫婦に話してみようかしら?子どもが生まれたけれど仕事が忙しくて、私に手伝ってほしいらしくて、うちのマンションに空室があれば入りたいって言っていたのよね」というようなケースです。意外とありそうな話だと思いませんか?
この場合、売主が専任媒介契約や一般媒介契約を結んでいれば、不動産会社に支払う仲介手数料はゼロになります。ところが、専属専任媒介契約を結んでいると、このようなケースでも仲介手数料を支払わなければなりません。
不動産業者に支払う仲介手数料は、いったいいくら?
マンションが無事売却された際に、不動産業者に支払う仲介手数料は、下記の方法で計算します。
売却価格×3%+6万円
たとえば3,000万円でマンションを売却した場合は、3,000万円×3%+6万円=96万円なので、不動産業者に支払う仲介手数料は96万円になります。
「自己発見取引なんて早々ない」と思うかもしれませんが、もしもそういう機会があったときに、これだけの大金を支払うか支払わないかではとても大きな差が出ます。買主もまた同じ金額を不動産業者に支払うことになるので、自己発見取引ができれば、売手も買手も万々歳ということになります。
ほかにも小さな違いが二つほどある
活動報告のタイミングが、専任は2週間に1回、専属専任は1週間に1回
活動報告とは、どのような売り出し方をして反響はどうだったかなどを、不動産業者が売主に定期的に報告することをいいます。専任媒介契約の活動報告は2週間に1回ですが、専属専任媒介契約の場合は1週間に1回のタイミングに縮まります。
売主に縛りを与える分だけ、報告もマメになるといったところでしょう。活動報告は、文書やメールで売主に届きます。 売主が販売活動の現状をこまめに知りたい場合は、専属専任媒介契約にすると1週間ごとに進捗状況がわかるので、安心して不動産業者に委ねることができます。
「レインズ」に登録されるまでの日数が、専任は7日、専属専任は5日
「レインズ」とは、不動産業者間で物件情報を共有する不動産取引情報サイトのことです。専任媒介契約の場合は媒介契約後7営業日以内に登録されますが、専属専任媒介契約では5営業日以内に縮まります。
専属専任媒介契約にしかないメリットとは?
これまでの説明だけでは、専属専任媒介契約のメリットはあまりなさそうに感じますが、たったひとつだけ、専属専任媒介契約にしかない大きなメリットがあります。それは、不動産業者が他のどの契約方法よりも熱心に、販売活動を行ってくれるということです。
たとえ親族や友人が買手になっても仲介手数料を払ってもらえるとなれば、不動産業者がマンション売却のために尽力しても、お金を取り損ねることはありません。「そこまで自分たちに委ねてくれるのなら、ひと肌脱ぎましょう!」という気持ちになっても、おかしくはないでしょう。
当然ながら販売のためにかけるコストや時間も、単なる専任媒介契約や一般媒介契約の物件よりは多くなります。売主と不動産業者がより強い絆で結ばれ、二人三脚で歩んで行くことができるのが、専属専任媒介契約の最大のメリットです。
もしも売主がごまかして、自己発見取引をしてしまったら?
売主と不動産業者が専属専任媒介契約を結び、「どんな場合でも必ず仲介手数料を払う」というお互いの約束のもとに売却活動を行っているにもかかわらず、売主がごまかして自己発見取引をしてしまったらどうなるでしょうか?
この場合、不正の事実が発覚すると、当然ながら違約金が発生することになります。それだけでなく、不動産業者との関係は最悪の状態になり、中には意地悪をして契約を破棄させてしまう業者もいます。
せっかく見つけた買手をそのようなことで無くしてしまわないよう、くれぐれも専属専任媒介契約を結んだ場合は、仲介手数料を払って契約をするようにしましょう。
専属専任媒介契約の成功事例
専属専任媒介契約を結んだことで、営業マンは熱心に販売活動に奔走
Aさんはマンションを売却するにあたって、地元の不動産業者と専属専任媒介契約を結びました。特に専属になることを強要されたわけではないのですが、とても誠実な営業マンだったので、専属になることによってより一生懸命営業活動を行ってくれると考えたからです。
Aさんのその選択は、大正解でした。営業マンはAさんの物件の売却に一生懸命に取り組み、経費のかかる周辺地域へのチラシ配りなども大々的に行ってくれました。
その甲斐あって、ポストに入れたチラシが一軒家に住む老夫婦の目にとまり、「息子夫婦が私たちのことを心配していて、近くに越してくると言っているの。すぐ近くのマンションだから、ちょうど良いかもしれないと思って」と、内覧の申し込みがあったのです。
買主は知り合いの親族だったが、喜んで仲介手数料を支払ったAさん
その知らせを聞いたAさんは、老夫婦が町内会の知り合いだったことを知りました。しかし、Aさんは自己発見取引を考えるようなことはせず、不動産業者を通して内覧を受け入れ、無事成約して仲介手数料を不動産業者に支払いました。
「専属専任媒介契約を結んだことで、営業マンは頭が下がるほど一生懸命にマンションの販売活動をしてくれた。結果的には知り合いの親族と契約を結ぶことになったけれど、営業マンが努力をしてくれなければ、このご縁はなかったはず。たとえ仲介手数料を払ったとしても、専属専任媒介契約にして本当に良かった」と思うAさんでした。
専属専任媒介契約の失敗事例
大手不動産業者と専属専任媒介契約を結んだBさん
「不動産業者を選ぶなら大手に限る」と考えていたBさんは、マンション売却にあたって当然のように大手不動産業者を選び、先方の指定通り専属専任媒介契約を結びました。
ところが、契約期間の3ヶ月近くになっても、一向に内覧に訪れる人がいません。「どうしたのだろう?」と気になって営業マンに電話をしてみても、「時期が悪いのでしょうか?営業はかけているのですが、内覧希望者がいらっしゃらないんですよね」という返事しか返ってきません。
契約期限ギリギリになって、営業マンが「業者買取」を提案
そして契約期限の直前、営業マンから連絡が入りました。営業マンは、「今は時期も悪く、物件的にも売りにくいので、このまま販売活動を続けても売却は難しいでしょう。私共の方で買い取りましょうか?」と、Bさんの説得にかかったのです。
まんまと営業マンの罠にはまってしまったBさんは、相場よりも2割安い金額でマンションを手放してしまいました。
マンションが売れなかった理由は、業者の「売り止め」だった!
その数日後、同じマンション内の知り合いが、相場よりやや高値で物件を売りに出しました。「このマンションは売りづらいよ」とBさんはアドバイスしていたのですが、なんとすぐに買手が見つかり、トントン拍子に契約へと進みました。
Bさんの物件と知り合いの物件は、ほとんど同じ条件。「買手などつくはずがない」と思っていたBさんは驚愕し、知り合いが頼んだ不動産業者に相談したところ、「それは売り止めですね」と言われたのです。
安易に専属専任媒介契約を結んだことを、心から悔やんだBさん
売り止めとは、不動産業者が不当に利益を得るために、物件の販売をストップしてしまうことです。Bさんの場合、営業マンは最初から物件を自社で安く買い取り、その物件をすぐに売却して、自分は何もせずに大きな利益を得る予定でした。
専属専任媒介契約を結んでおけば、マンションが売れずに痺れを切らしたBさんが自分で買手を見つけてきても、不動産業者は手数料を受け取ることができます。不動産業者にとって、こんなおいしい話はありません。
ようやく自分がはめられたことに気付いたBさんは、「そもそも大手だからと信用しきって、担当者の人柄を見ずに契約した自分が愚かだった。専属専任媒介契約を結ぶなら、もっと慎重になるべきだった」と、心から後悔するのでした。
専属専任媒介契約に関するまとめ
専属専任媒介契約は、良い不動産業者にあたれば売主にとってプラスとなり、逆に悪い不動産業者にあたってしまうと大きなマイナスをもたらす契約方法です。
専属専任媒介契約を結ぶにあたっては、本当に信頼できる業者かどうかをしっかりと見極めて、お互いの強い信頼関係のもとに決定することが重要です。