住宅ローンを完済すると、不動産会社や司法書士から「では抵当権の抹消手続を行います」という説明が入るはずです。この抵当権抹消手続を行わないと、売主から買主へと所有権を移転することができません。そんな重い存在感をもった抵当権とは、いったい何なのでしょうか?抵当権抹消のための費用は、いくらかかるのでしょうか?
そもそも「抵当権」とは、いったい何?
抵当権とは、住宅ローンを組むときなどに、「万が一その借金を返せなかったら、担保としてこれをもらいますよ」と主張できる、貸手側の権利のことです。昔は借金が返せないとヤクザが家に押しかけ、「借金のかたにこれをもらっていくぞ」と脅されましたが、この抵当権があることによって、貸手は法律上の権利のもとに借金のかたを手に入れることができるという仕組みです。
借金が返せないときに没収される、不動産などの「物的担保」
担保には、「物的担保」と「人的担保」の2種類があります。借金が返せないときに金融機関から没収される不動産などを「物的担保」といいます。
たとえばマンションの住宅ローンを借りるときには、ローンの対象であるマンション自体を担保に入れるケースが数多くあります。このとき、マンションの専有部分の土地と建物に対して抵当権が設定され、万が一借手がローンを返せなくなったときには、その代償として金融機関が物件を没収し競売にかけます。
連帯債務者や保証人が借金を肩代わりする「人的担保」
これとは違って、住宅ローンを組む際に「連帯債務者」や「連帯保証人」が設定される場合があります。これを「人的担保」といいます。万が一借手がローンを返済できなくなった場合には、この連帯債務者や連帯保証人に返済義務が課せられ、貸手に代わって住宅ローンを返済しなければなりません。
どうしても連帯保証人を立てられない場合には、保証会社に保証料を支払うことによって、連帯保証人になってもらうことも可能です。ただし、けっして安い金額ではありません。
日本には昔からこの連帯保証人制度がありましたが、人の借金を押し付けられた連帯保証人が自己破産するなどのケースも多く、昨今では廃止や見直しが叫ばれています。住宅金融支援機構の「フラット35」は、連帯保証人を必要としない固定金利の住宅ローンとして、多くの人に利用されています。
抵当権を抹消するとは、どういうことか?
このように、借手にとっても保証人にとっても大きな重みをもつ「抵当権」ですが、この抵当権を抹消するとは、どういうことなのでしょうか?
抵当権の抹消とは、マンションなどの不動産に付いている抵当権を外すことをいいます。抵当権抹消手続を行うことによって、土地・建物に付いていた物的担保は解除となり、連帯債務者や連帯保証人がいた場合は人的担保が外されます。
マンションの住宅ローンを完済した後は、速やかにこの抵当権抹消手続を行わなければなりません。
抵当権を抹消するには、どうしたらいいか?
では、抵当権抹消手続が、実際にどのようにして行われるかをご紹介しましょう。マンション売却の一連作業のラストに、「決算」の手続きがあります。抵当権の抹消は、この決算の手続きの中で行われます。
決算は主に買手が住宅ローンを組む銀行で行われ、売手と買手の双方が、司法書士立会いのもとで「抵当権抹消登記」を行います。このときは不動産業者も同席します。
抵当権抹消登記の流れ
住宅ローンを完済すると、銀行から抵当権抹消の必要書類を渡される
流れとしては、まず買手が手付金を除いた住宅ローンの残金を支払うことによって、売手の住宅ローンが完済されます。そうすると、銀行から抵当権抹消に必要な書類を渡されます。
この書類に必要事項を書き込んで司法書士に渡すと、司法書士がこの書類を持って法務局に出向き、抵当権抹消登記を行います。これによって、抵当権は無事抹消されるという流れです。
抵当権が抹消されると、その後何をするか?
売主のマンションに付いていた抵当権が抹消されると、晴れて売手側から買手側に所有権を移転することができるようになり、その場で所有権の移転登記が行われます。この手続きがすべて終わるとマンションの売却は完了し、売主は買主にマンションの鍵を渡して、マンションの売却に関わる一連の作業が終了することになります。
抵当権抹消登記の費用は、誰が払う?
抵当権の抹消手続は、売主が物件を売却するために必要な手続きなので、売主が払うのが一般的です。逆に所有権の移転手続は、買主が物件を所有するために必要な手続きということで、買主が支払うのが一般的です。
抵当権の抹消登記費用は、いくらかかる?
司法書士費用は、諸費用を含めてトータルでいくらかかるのか確認を
抵当権抹消登記に必要な費用は、司法書士への報酬(通常1万円前後)と、登録免許税(不動産の数×1,000円)です。
司法書士への報酬は、抹消登記費用とは別に調査費用や証明書の発行費用・通信費・消費税がかかります。1万円と言われても、実際は1万5,000円以上かかる場合もあるので、トータルでいくらかかるのかを確認した方が良いでしょう。
登録免許税の金額は、不動産の数によって違う
登録免許税の金額は「不動産の数×1,000円」ですが、マンションは複数の土地の上に建物が建っているため、そのマンションがどんな登記の仕方をしているかによって不動産の数が違ってきます。
たとえば土地と建物が一つずつであれば、2×1,000円=2,000円。マンションの敷地が2筆になっている場合は、3×1,000円=3,000円になります。不動産の数に関しては、登記簿謄本を見ると確認することができます。
抵当権の抹消登記は、自分でもできる?
不動産の登記は、自分で行うこともできる
不動産の登記を司法書士に頼まなければならないという規則はないので、自分で行うことは可能です。その際は、以下の書類を法務局に提出する必要があります。
- 抵当権抹消に関する書類(決算時に銀行から渡されるもの)
- 抵当権抹消登記申請書
- 登記済証(権利証)または登記識別情報
- 登録免許税(不動産の数×1,000円)
書類ミスなどのリスクを考えると、司法書士に依頼した方が安心
抵当権抹消登記申請書は、司法書士に頼んだ場合は司法書士が記入しますが、自分で申請する場合は自分で記入しなければなりません。この内容を間違えるととんでもないことになるため、自信がない人は法務局でアドバイスを受けながら記入するのが賢明な方法です。
また、抵当権の抹消登記を自分でするとなると、買主が不安に思う場合もあるでしょう。書類ミスのリスクや法務局への行き帰りの所要時間などを考えると、1万円台で司法書士を頼めるなら、その方が安心といえるかもしれません。
登記済証や登記識別情報を紛失してしまった場合は?
マンション売却の段階になって、登記済証(権利証)や登記識別情報を無くしてしまったという人は、意外と少なくありません。特に30年以上経つ築古マンションの売却となると、購入時に受け取っているはずの書類がどこかに紛れてしまって、見当たらない人もいます。
でもご心配なく!登記済証や登記識別情報を無くしてしまった場合でも、「本人確認の作成」と「事前通知」という2つの方法で、抵当権を抹消することができます。ただしどちらも費用はかかり、それなりの時間もかかるので、それは覚悟しておきましょう。詳しくは管轄の法務局にお訊ねください。
抵当権抹消に関するまとめ
抵当権の抹消に関しては、基本的に不動産業者がフォローをしてくれるので、あまり心配する必要はありません。司法書士の手配も、不動産業者が紹介してくれるケースが大半です。しかし、抵当権自体は非常に重要な意味をもっているので、そこはしっかりと抑えた上で、マンションの売却に臨みましょう。