築年数が古いマンションを売買する場合、売却後(買主にとっては購入後)に欠陥や不具合が見つかったらどうしようという不安があります。売主の立場で考えると、売却後に見つかった欠陥に対して修理代などの損害賠償を求められたら……という心配があります。
それを回避するのが「既存住宅売買瑕疵(かし)担保保険」です。
既存住宅売買瑕疵担保保険とは
まずは既存住宅売買瑕疵担保保険とはどんな保険なのか、ご説明します。
中古物件売却後の欠陥を保証する保険
新築物件は「住宅瑕疵担保履行法」という法律で、売却(引き渡し)後10年間は欠陥や不具合が見つかった場合に売主や施工業者に賠償責任を負うことを義務づけています。
そして、10年間の間にもし施工業者が倒産した場合でも保証が受けられるように保険金や保証金で修理ができるようになっています。
しかし、これは新築物件が対象で、中古物件にはその保証がありませんでした。そこで、既存の住宅にも売却後の欠陥や不具合などに対応できる保険を…ということでできたのが「既存住宅売買瑕疵担保保険」です。
既存住宅売買瑕疵担保保険の概要
既存住宅瑕疵担保保険の最大の特徴は、加入条件として住宅診断で問題がないと証明された物件であるという点です。
一般の生命保険で考えると、健康な人しか保険に加入できないのと同じことですね。
既存住宅瑕疵担保保険は検査に通った物件が加入できる
保険加入前にインスペクションを実施
既存住宅瑕疵担保保険に加入するには、事前にインスペクションと呼ばれる住宅診断を受けて、適正であるという判定を得る必要があります。インスペクション(住宅診断)と保険はセットで考えるといいでしょう。
保険は売主が個人のタイプと不動産会社のタイプがある
既存住宅瑕疵担保保険は、売主が個人の場合に加入するタイプと売主が不動産会社の場合に加入するタイプがあります。
個人タイプの場合、売却後(保証期間内)に欠陥が見つかると検査機関が保証します。保証とは修理代金などを支払うことを指します。
不動産会社タイプの場合は不動産会社が保証することになっています。
既存住宅瑕疵担保保険の内容
既存住宅瑕疵担保保険(個人間用)の保証期間は1年または5年です。
JIO(株式会社日本住宅保証検査機構)の既存住宅瑕疵担保保険の内容は下記のようになっています。
保証の対象となる部分 | 保険金が支払われるケース |
---|---|
① 構造 | 構造耐力上主要な部分が基本的な耐力性能を満たさない場合 |
② 防水(雨漏り) | 本来雨水の侵入を防止すべき部分が防水性能を満たさない場合 |
③ 給排水管路 | 給排水管路が通常有すべき性能または機能を満たさない場合 |
④ 引渡し前リフォーム工事 | 引渡し前に実施したリフォーム工事で社会通念上必要とされる性能を満たしていない場合 (保証期間は1年間) |
⑤ | ③と④の両方の場合 |
なお、①と②に関しては標準で付帯されていますが、③~⑤は保険商品によって取り扱いが異なります。
既存住宅瑕疵担保保険の保険金額
個人間の場合、保険金額は500万円または1000万円までです。(上限は選択したコースによります。)なお、保険期間が5年の場合は1000万円のみになります。
免責金額は5万円となっています。(免責金額とは修繕費用の内、5万円は支払わなくてもいいという金額のことです。)
既存住宅瑕疵担保保険の取り扱い会社
既存住宅瑕疵担保保険の取り扱いができるのは、国土交通大臣が指定した「住宅瑕疵担保責任法人」に限られています。
保証期間(1年または5年)と保険金額(500万円または1000万円)はどこで加入しても同じですが、特約は保険商品によって若干異なります。
マンション売却時に既存住宅瑕疵担保保険に加入するメリット
既存住宅瑕疵担保保険は保険なので、当然費用がかかります。保険料はインスペクション(住宅診断)費用と保険料を合わせて10万円~15万円ほどかかります。
しかし、それ以上のメリットがあります。
既存住宅瑕疵担保保険に加入することでマンション売却が有利に
売却予定のマンションに既存住宅瑕疵担保保険を付けておくことで、売主には次のようなメリットがあります。
- 売却後に瑕疵(欠陥や不具合)が見つかったときに修繕費用の負担をしなくてもいい
- インスペクションを行って適正診断を受けていることや購入後の不具合に対して保証があるということで買主に安心感を与えられる
- インスペクション未実施、保険未加入の物件との差別化が図れる
- 値引きを防ぐことができる
では、それぞれについてご説明していきます。
売却後の不具合対応の不安が解消
売却時にはどこも欠陥がないと思っていても、買主が入居後に思いもよらぬ欠陥や不具合が見つかることがあります。買主が欠陥を見つけてから1年以内であれば売主は修繕費用を負担しなければなりません。
欠陥の状況によっては修繕費用が高額になる場合があります。それを防ぐには、契約書に「瑕疵担保責任の免責期間」を明記する方法があります。例えば免責期間を3ヶ月にしておくと、購入後3ヶ月経過後は売主は瑕疵担保責任は問われません。しかし、それでは売主が不安になってしまいます。
そういった場合に既存住宅瑕疵担保保険に加入しておくと、買主、売主双方の不安が解消できます。
買主への安心感がUP
既存住宅瑕疵担保保険に加入できたということは、インスペクションを実施し適正であると診断が出ている物件であるということが言えます。いわばお墨付きの安心物件ということで、購入希望者の不安解消につながります。
他物件との差別化が可能
既存住宅瑕疵担保保険は2010(平成22)年からスタートしました。そのため、まだあまり業界でも浸透していないのが現状です。売りに出されている中古マンションでも既存住宅瑕疵担保保険を付けていない物件が多くあります。
そんな中でインスペクションを実施し保険に加入している物件は、それだけで付加価値が高まります。他物件との差別化も図れるというメリットがあります。
値引き交渉で有利に
既存住宅瑕疵担保保険に加入していない物件の場合、契約時に瑕疵担保責任の免責期間を記入します。中古マンションの場合の免責期間は3ヶ月程度なので、買主はそれ以降で欠陥や不具合が見つかったらどうしようという不安があります。
「それだったら、もっと値引きしてよ」と言われる可能性が大きいのですが、既存住宅瑕疵担保保険に加入しておればその心配がなくなります。むしろ、「優良物件ですよ」と強気の交渉ができます。
既存住宅瑕疵担保保険に加入済みの物件購入は買主の税額の優遇も
これは買主にとってのメリットになりますが、既存住宅瑕疵担保保険に加入している物件を購入した場合、登録免許税と不動産取得税に対して軽減される制度があります。
税率 | 軽減税率 | |
所有権移転登記 (建物に対して) |
2% | 0.3% |
抵当権設定登記 | 0.4% | 0.1% |
なお軽減の優遇を受けるには既存住宅瑕疵担保保険の加入以外にも床面積が50㎡以上であることや床面積の90%が居住部分であることなどの条件があります。
不動産取得税は建築時期によって控除額が異なります。詳しくは担当者に聞いてみてください。
マンション売却時に既存住宅瑕疵担保保険に加入するメリット~まとめ
既存住宅瑕疵担保保険は2010年からスタートしたもので、中古物件に対して売却後に瑕疵(欠陥や不具合など)が見つかった場合に修繕費用が出る保険です。
加入できるのはインスペクション(住宅診断)を実施し、問題がないと判断された物件に限られます。そのため売主も買主も売買契約後の欠陥などに対しての不安が軽減されるというメリットがあります。
また、売買交渉に際しても付加価値が高まるため有利に話が進められます。売りやすいという点では不動産会社にとってもメリットがありますし、一定の条件を満たせば買主に税制面での軽減措置もあります。
売主にとっても買主にとっても不動産会社にとってもメリットが多い保険です。マンション売却を検討される際は、ぜひ加入を検討してみましょう。